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第10話
月曜日、こんなにも会社に行くのが嫌だと思った事はない。
その日、ひたすら武蔵を避けた。気落ちしているのが、横目でも分かる。どう接していいのか、戸惑っているようだ。可哀想にも思えたが、今は必要以上の事は話したくないと思った。
そんな中での仕事は散々だった。武蔵も自分もつまらないミスを繰り返し、会話がない為に意思疎通ができず、互いにチグハグな事をしてしまい結果、午前中は仕事にならなかった。
一服しようと席を立ち、喫煙所に向かった。自販機に寄って缶コーヒーを購入すると自販機横のベンチに腰を下ろした。
武蔵は大きな体をこれでもかと縮こませ、落ち込んでいる。だが、昨日の事をアッサリと許す気になれなかった。
(あんなもん、下手したらレイプだろ)
武蔵がなぜあんな事をしたのか考えてはみたものの、答えは出なかった。
「あっ! 榛名さん!」
女性の声がし顔を上げると、持田恵理だった。
昨日の武蔵とのデート話でも聞かされるのだろうか、そう思うと早くこの場を去りたかった。
「聞いて下さいよ! 昨日、武蔵くんとデートしたんです」
予想通りで少しうんざりもしたが、邪険にもできず黙って聞くことにした。
そして持田の話を聞いて、瞬は居ても立っても居られなかった。
持田の話によれば、既成事実を作ろうとK町のホテル街まで武蔵と行ったのだが、入る前に急に謝罪され、
『好きになった人としかしたくない』
そう言われたのだと。
好きな人は持田ではないとならば、誰なのか。
「同じ会社の人で、自分を変えてくれた人って言ってました。だから、武蔵くんをカッコよくしてくれた人なんだと思いますー」
持田は酷く残念そうにそう言った。
K町のホテル街は、ユウと入ったホテルがある場所だ。武蔵は自分とユウがホテル街にいるのを知っている風だった。自分がユウとホテル街にいる所を見たのだろう。
ずっと、頭の隅であり得ないと思っていた仮説。
武蔵はずっと言っていた。好きな人としかしたくない、と。
気持ちを確かめる為に、話し合わないといけない。
そう思い、フロアに戻るとボードを見た。武蔵は取引先に課長と出かけているようだ。そして直帰と書いてある。
瞬は、ずっとポケットにしまってあった武蔵のアパートの合鍵を握りしめた。
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