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エピローグ

俺には大学の頃から付き合っている女性がいた。 水島春菜(みずしま はるな)さん。同じ大学の生徒。 彼女の長い黒髪に小さな顔。そして明るい笑顔に一目惚れした。 「石川裕(いしかわ ゆう)くんは身長が高いし、モデルみたい。それに女子にも優しい。」 「え?突然どうしたの春菜」 同じベットで寝ながら、彼女は俺を見つめながら言った。 「同じ大学の女子がよく言ってるんだよ?そんな裕を私は独占できて幸せだなって思ってたの」 「俺も春菜を独占できて幸せ」 そう愛を呟いて、彼女の額にキスをする。 まるで彼女に誓うようだ。 俺が愛しているのは君だけだと。 そんな誓でさえ、俺は幸せを感じた。 大学2年生になった頃、春菜の家にもよく訪れるようになった。 優しい御両親と高校生の水島直人(みずしま なおと)くん。 春菜の家族の方々とは、すぐに仲良くなれた。 特に弟の直人くんは少し人見知りな所があったが、一緒にゲームをする仲になった。 大学が終わったら、春菜の家で彼女を待った。その間に彼とするゲームは結構楽しかった。 テレビの前で大学生と高校生が座り、リモコンをいじる。 御両親がいないことが多く、部屋にはゲーム音だけが響く。 それに耐えられず、ある質問をしたのを覚えてる。 「直人くんは彼女いないの?」 「……いない」 「…ふーん。結構かっこいいのに。意外」 「裕さん、それよりゲームに集中しないとやられちゃうよ?」 「あ、やっべ!」 少し間のある返事に、本音を隠している気がしてならなかったから印象に残っている。 それから時は流れ2年後。 大学4年生のクリスマスの日に、春菜へ結婚を申し込んだ。 「大学を卒業して落ち着いたら、俺と結婚してください!」 そう伝えると同時に小さな箱を彼女に差し出す。 もしかして大学を卒業してから結婚するとか重いし早いかもしれない。けど、俺には彼女と幸せになる未来を早く手に入れたかった。 彼女の顔を見つめていると、彼女は涙を浮かべながら笑った。 「はい!お願いします。」 最高のクリスマスだった。俺もつられて泣きそうになったのを今でも覚えてる。 そこから彼女の御両親へも、お話をして喜んでもらえた。勿論、俺の両親も喜んでくれた。 その時からかもしれない。直人くんとあまり話さなくなった。 「直人、きっとお姉ちゃんを取られた気がして拗ねてるだけよ。しばらくしたら元に戻るわ。」 春菜のお母さんにそう言われて、一人っ子の俺にはよく分からず、「そうですか」と返事をした。 それから大学を無事に卒業。 就職活動も上手くいって、本当に順調な日々だった。 彼女との結婚式が行われたのは真夏の日。 そして驚くことが起きたのは、結婚式が無事に終わった日の夜だった。 「裕さん…好きなんです」 直人が俺に近づき、ギシギシとベットの軋む音が部屋に響く。 俺は直人くんにベットへ押し倒されていた。 彼は俺の上へまたがり、俺を見下ろす。 少し長い前髪から時々みえる彼の瞳は、獲物を見つけた獣と同じだった。 耳にはピアスをいくつも空け、俺の知っている直人くんではないように思える。むしろ何故か、恐怖さえ感じる。 「直人くん…?」 「裕さん、俺もう子供じゃないんですよ?」 遡ること14時間前。 俺が彼と久しぶりに出会ったのは、結婚式の再中だった。

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