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③
長かった一日は終わり、結果、結婚式は大成功で終わった。
その後に行われた二次会・三次会にも俺と春菜は参加したので、足をふらつかせながら春菜の実家へ到着。
玄関のチャイムを鳴らすと、パジャマ姿のお義母さんが笑顔で迎えてくれた。
「二人ともお疲れ様。結婚式、とても良かったわよ」
「ありがとうございます」
「お母さん、ありがとう!」
「さあ、早く入って休みなさい。裕さんは春菜の部屋でお休みになって。もう布団とかも準備したから」
どうやら俺たちが来るから、こんな深夜まで待っていてくれたようだ。なんか申し訳ない気持ちになる。
家へ上がると、お義父さんの姿はリビングになかった。
もう寝てしまったようだ。
二次会まで参加して、相当酔っ払っていたので無理もない。
「私、シャワー浴びてくるー」
そう言って春菜は荷物をリビングに置いて、シャワー室へと向かった。
俺とお義母さんは椅子に座って、お茶を入れてもらった。
入れてもらったお茶を飲んで、一息つく。
「お義母さん、すみません。急に泊まるとか言ったのに色々とやって下さって」
「いいのよ。むしろ、本当に結婚式の日なのに、二人きりで過ごさなくていいの?」
「春菜がお義母さんに会いたがってましたから。それに終電がもう無いので助かります」
「ここと比べて結婚式会場から遠いものね。とりあえず、今日はゆっくり休みなさい」
「はい」
すると、直人が白Tシャツの姿でリビングへ来た。中身が空になったコップを片手に持っているので、飲み物を入れに来たのだろう。
「直人、こんばんは。今日は参加してくれてありがとうね」
「…お疲れ様です。」
そうつぶやくように行って、冷蔵庫から取ったお茶をコップに注いで、すぐに二階へと上がって行った。
「ごめんなさいね。なんか直人が感じ悪くて。あの子も、もう大学生なのに人見知りがすごくて…」
「いやいや!でも雰囲気変わりましたね。身長も俺とそんなに変わらないし。なんかビックリしちゃいました」
「そうなのよ。身長が成長期でぐんぐん伸びてねー。それに突然、ピアス開けたりし始めちゃって。もう、お父さんと大喧嘩よ」
「ははは。そんなことがあったんですね」
俺は時計をチラリと見る。
もう12時になる頃だ。
「じゃあ俺はそろそろ二階へ失礼します」
「そうね。ゆっくりしてちょうだい」
俺は荷物を片手に二階へと上がった。
上がってすぐ左は直人の部屋になっている。
右の廊下を少し歩くと、そこが春菜の部屋。
春菜の部屋と言っても、荷物は全て新居の方へ移しているので今は空き部屋になっている。
まずは春菜の部屋へ行き、荷物を置いた。
「お義母さん…」
物が何も置かれていない部屋の真ん中に二つの布団が並べてひかれていた。
つまりは、そういうことなのだろう。
とりあえず俺は約束をしていた直人の部屋の前へ行き、少し緊張しながらノックをした。
「どうぞ」
返事があったからドアを開けると、直人は椅子に座りながらスマホを触っていた。
「直人、相談って何かな?」
直人の部屋は片付けられていた。
教材が並んでいる本棚、ベット、勉強机があるだけのシンプルな部屋。
「裕さんはベットに座っていいよ」
「え、なら遠慮なく……ってわぁ!」
ベットに腰掛けた途端、直人が肩を押して、押し倒してきた。
突然なことに、自分でもマヌケな声が出てしまって恥ずかしい。
けれどそれよりも恥ずかしいのは、直人に押し倒されているこの状況だ。
「直人くん?」
「裕さん、俺もう子供じゃないんですよ?」
直人に見下ろされて、さっきまで前髪でよく見えない顔も見える。
前髪で隠すには勿体ない顔立ちをしていた。
そんな顔の人に言われて男の自分もドキッとしてしまう。けれど直人の瞳は獣のようで、ゾクリと恐怖が体を走った。
おもわず、直人の両肩を掴んで抵抗しようとしたが、両腕とも直人に掴まれた。
その力は強く、俺にはどうしようもできない。
「直人くん、さっきからどうしたんだ?どいて欲しいんだけど…」
「だから裕さん、さっきから、さん付けやめて下さいよ」
「え?あぁ、うん。ごめん」
「次から気をつけて下さいね」
その言葉は何故か怒っているように思えた。
表情もどこか冷たい。
「裕さん、俺ね、裕さんのことがずっと好きだったんですよ」
「え?」
俺のことを裕が?むしろ嫌っているんじゃないのか?
「高校生の頃からずーっと好きだった。何度もこの気持ちを伝えようと思った。けど俺は怖くて…」
直人の瞳には涙が浮かぶ。
本当に俺のことが…?
「なのに、姉さんと結婚?…そんなの、やっぱり許せないよ!」
直人は俺の片腕を離すが、ポケットからタオルを取り出して俺の口元に当てた。
「なんだよこれ…!」
暴れるが、直人は動かない。
段々とタオルからする甘い香りが思考を鈍らせていく。力も入らなくなっていく。
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