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退場する時、直人と目が合った。 その途端、彼は席を立った。 隣に座っていた母親に何か言われている様子だったが、会場の外へと出て行った。 俺は春菜と退場すると、別室に向かう彼女に声をかける。 「春菜、先に部屋行っててくれ」 「え、うん。何かあったの?」 「大丈夫だよ。ちょっと休みたいだけだから」 「そっか。朝から忙しかったもんね。時間あんまりないから、すぐ戻ってきてね」 「もちろん」 直人くんに何か言われた訳じゃないが、目が合った時に、俺に用がある気がした。 それを何となく春菜に言うべきでは無いと思って、彼のいるであろう会場の出入口付近へ向かった。 やはりそこで直人くんはつまんなそうな顔をして壁によりかかり立っていた。 自信が無さそうな顔をしていた高校生の頃とは違い、今の彼は元気そうに見える。 「直人くん!久しぶりだね」 俺が駆け寄ると、彼は俺を一瞥すると目を逸らした。そしてポツリと話す。 「あぁ。久しぶりですね」 「元気にしてた?今日は来てくれてありがとう」 「別に…。裕さんは幸せそうでなによりです」 「まあね。今度、俺の家においでよ!まだ来たことないだろ?また一緒にゲームしたいしなー」 俺の言葉に目を逸らしたまま、彼は何も言わない。昔の方が、よく喋れていたかもしれない。 「直人くん、たしか今年で大学生だよね?どこの大学に行ってるんだっけ?」 「…A大」 「え!?そうなの!?」 春菜のお母さんからは第一志望の大学に合格したことだけは知らされていた。 まさか俺と春菜が通っていた大学だとは思わなかった。 やっぱり俺が春菜を自分から取ったとか思われちゃってるのかな。 正直、直人くんとはこれからも仲良くしていたいから少し残念だ。 「あと、裕さん」 「ん?なにかな」 「俺のこと、くん呼びしないで下さい。もう大学生なんだし」 「あ、そっか。わかったよ、直人」 「…!」 直人は何故か、顔を真っ赤にして俺を睨むようにして見た。 けれどすぐに下を向いてしまう。 思わぬ不意打ちに、可愛いとか思ってしまった自分がいる。 「…裕さん、式終わったら時間あったりするんですか?少しお話あるんですけど」 「今日?いいよ。この式の会場から春菜のご実家は近いから、ちょうど春菜とも寄っていこうかなって話してたんだ」 「そうなんですね。それじゃあまた後で」 「ちょっ…」 彼は要件だけ話して、すぐに会場の方へ戻って行った。 もしかして初めての大学活動に悩んでいることがあるのかもしれない。 だから俺に頼ってくれているのかも。 そんなことを思いながら、俺も春菜が待つ部屋へ戻った。

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