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Extra edition.1
どうすべきか―――と、高木悟志は最近いつも思っている。
「悟志さん、今日は休み?」
食後のコーヒーをタイミング良く出してきた目の前のこの派手な顔の男。自称ホスト、山梨青弥の事である。
ホスト特有の甘さを含んだ笑みを浮かべる青弥を一瞥し、悟志は無表情で答えた。
「いや、仕事だ。いつもより朝は遅いが、部活がある。」
「な~んだ、仕事か。ナニ部?」
「陸上部。」
深いコーヒーの香りに浸りながら、悟志はカップに口を付けた。いつの間にか好みの味を把握されたらしく、濃い目のコーヒーが口内に広がる。
幸せだ。
悟志が目元を緩めると、青弥も嬉しそうに自分もコーヒーを飲み始めた。青弥は人に尽くして喜ばれる事が好きなのだという。
あまり分からない感覚だが、それにより悟志の食生活は格段に豊かになっているのは確かだ。
「悟志さんも走ったりするの?足、速そうだね。」
「顧問が走る訳ないだろ。偉そうにアレしろ、コレしろ言うだけ。」
ププッ―――と、青弥が吹き出す。
「ウソだ。絶対、そんな風に言わないでしょ。猫かぶりなんだから。悟志さん、寒気がするほど、爽やかにしてんだろうな。」
「おまえ、本当に失礼だな。」
「だって、こんなに無愛想なのに、一歩部屋を出た途端に、爽やかマンになって気持ち悪いんだもん。」
1度だけ外で顔を合わせた事がある。と言ってもマンションのエントランスだが。
他の人に対する時と同じように悟志がにこやかに挨拶をすると、青弥は絶句して、変な顔をしたまま固まっていた。
「『もん』はやめろ。気持ち悪いなんて初めて言われたぞ。青弥、美的感覚、崩壊してるんじゃないのか?ホストなのに残念な奴だな。」
「してないし~。悟志さんがカッコいいのはちゃんと分かってるもん。」
「―――だから『もん』はやめろ。」
実際のところ、常日ごろ女子生徒に囲まれているから、容姿を褒めるような言葉には慣れている。
普段の悟志であれば、ありがとう―――とでも笑って返すのだが、何故だか青弥に対しては猫を被る気にならない。
家族の前ですら猫が通常装備である悟志にとって、これは珍しい現象で、そんな自分にふと戸惑う瞬間がある。
失礼な話だが、青弥を人間と思っていないのではないかと理解していた。
―――ペット感覚?いや、可愛くもないし、可愛いがってはいないか。
「今日の帰りは何時?」
「そうだな、夕方の6時には帰ってくると思うが。」
悟志が答えると、青弥が嬉しそうに顔を輝かせる。
「本当!?じゃあ、早めの夜ごはん、どっかで一緒に食べない?」
満面の笑みを向けられ、悟志は顔を歪めた。青弥と外で食事など冗談ではない。
「勘弁してくれ。」
「え~!なんで?」
「夕方って事は出勤前だろう?そんなけばけばしい格好の男と食事したくない。オレの品位が疑われる。」
「ひどい~!」
ぎゃいぎゃいと騒がしい声を聞きながら、どうすべきか―――と、また悟志は思う。
家の前で青弥を拾って、明日の夜でもう1週間になるのだ。
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