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Extra edition.8
キレイな顔だ―――と、ソファでうたた寝する青弥を眺めて、悟志は思った。生命力を感じさせる目が閉じているせいで、まるで人形のような印象を与えていた。
こうして造形だけ見れば、なるほど悟志の好みである。それなのに、目を開けて話し出した途端に、品性が消滅するのだから不思議なものだ。
―――まだ22か。
若いとは分かっていたが、青弥は大学4年生だった。
先日、都内のホテルから内定をもらった為にホストは辞め、そこのカフェで昼間にバイトを始めた。
在学中はウエイターを経験し、卒業後は正社員になり料理を作ったりもするらしい。
ホストをしていたのは、将来、自分の店を持つための資金稼ぎだったようだ。意外としっかりしている。
てっきり『ちゃらんぽらん』なホストと思っていた。
そんな風に青弥を知る度に、胸が疼くこの気持ちに今もまだ慣れない。
―――キスして起こしたらどんな顔、するだろうな。
頭の悪い学生のようなイタズラを思い付く。
頭の悪い―――と自覚しつつも、全く止めようとも思わないのだから始末が悪い。
悟志がソファに膝を付くと、パチリと青弥の目が開いた。
「なんだ、起きてたのか。」
イタズラが不発に終わり、少しだけガッカリする。悟志が上から退こうとすると、青弥に腕を引かれ阻まれた。
「悟志さんさ―――、オレのこと好きでしょ。」
「なんだ、今さら。」
話の意図が分からずキョトンとなった。悟志の言葉に、何故か青弥が目を見開く。
「今さらって―――。今、初めて知ったんだけど。」
「鈍いな、おまえ。」
「そりゃ、優しくなったけどさ!犬扱いだし、ペット的な愛情が深まったというか。だったら、言ってくれても、」
ブツブツ―――と、青弥は文句を言いながら、段々と目元を紅くしていく。照れているらしい。
青弥の白い肌に、紅が色鮮やかだ。
―――可愛いヤツだ。
「じゃあ、分かりやすく、キスでもするか。」
「き、き、き、」
「あんな事しておいて、キスで動揺するな。」
「あ、う―――、ごめん。」
青弥が気まずそうにキョロキョロと目をさ迷わせる。しかし、その右手は悟志の体を引き寄せようとしていた。
―――こいつ、反省してないな。
先日のような暴挙に出ぬよう、ここは1つ釘を指して置かねばならない。
「おまえ、2度と主導権を握れると思うなよ。」
「ええ!?なんで、」
青弥が悲鳴じみた声を上げる。悟志を押し倒す気だったのだろう。思った通りだ。
「初心者のおまえに身を委ねたら、オレが流血沙汰だ。いいから、任せておけ。気持ち良くしてやるから。」
「いやいや、悟志さんに怪我させないように、ちゃんと準備するし。やっぱりさ、好きな人を抱きたいんだってば。」
「ああ、オレもだな。」
悟志が無表情に言い放つと、青弥が口を開けたまま固まった。何を考えているのか、視線が忙しなく動き回る。
しばらく無言で見下ろしていると、考えがまとまったらしく、青弥がキリッとした真剣な顔をする。
妥協点を見出だしたのか、自分が折れる事にしたのか。
「要相談でお願いします。」
青弥の折れたようで折れてない言葉に、ぷっ―――と、悟志は吹き出した。
そういう所も可愛く見えるのだから、恋とは不思議なものだ。
「じゃあ、まずは、キスから始めようか。」
嬉しそうに笑う青弥へ、悟志はゆっくりと顔を寄せた。この可愛い恋人に本気で迫られたら、自分が折れてしまうのだろう―――と、予感しながら。
End.
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