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第3話
しかし、今の眞言は誰の目にも晒されてはいない。ただ火に剋とうとする水の眷属の蛇たちがいるのみだ。
眞言はとうとう脚をいっぱいに開き、ずぶずぶと己に入り込む大蛇を受け容れる。
「あ、んぅぁ……、おぉ、きぃ……」
初めて大蛇に犯されたのは、十四の時だ。その頃は今ほど身体もたくましくはなく、あまりの苦痛に泣きわめいていた。
しかし十二日に一度身を委ね、催淫効果のある粘液を摂取しながら全身を嬲られているうちに、若木のようなみずみずしい肉体は快楽を覚えた。
陰陽の道について、少しだけ聞きかじったことがある。嫌がるのを強引に搾り取った精気よりも、感じさせながら採取した精気の方が美味で、より純度も高いという。
ならば、蛇神も生贄の感度を上げようとするだろう。
その意図通りに育ってしまった眞言は、前庭を押し拡げる蛇頭に圧迫されてただ喘いだ。
一匹の白蛇が、眞言の陽根に巻きついてきた。粘液をまとった蛇体がぬめぬめとうごめき、刺激を与える。その上、別の個体が舌を伸ばし、鈴口から内側に侵入してきた。
「あぁぅっ!」
異物感に、眞言は上体をくねらせた。しかし舌からしたたる粘液は、敏感な隘路すら性感帯に変える。蛇頭と舌で前後同時に責められた前立腺は、凶暴なほどの快感を眞言に与えた。
「ぐっ、ぁぁぁっ!」
過ぎた快楽に混乱する。壊れそうだ。逃れたい。しかし。
「もっと……」
無意識につぶやく。
そう、もっと。
これ以上の快楽を、眞言は知っている。蛇神に肢体を明け渡し、蹂躙されることで、稲妻のような快感を手に入れることができる。
一度目の絶頂は前ぶれなく訪れた。蛇の舌では尿道を塞ぎきることはできず、どろどろと濁った液体が蛇体にこぼれる。精気の込められた液体を求め、白蛇たちが寄ってくる。敏感な下腹を蛇が這い、眞言はますます感じる。
内壁は既に蛇神の形を思い出していた。眞言の身体は蛇神しか知らない。だからこそ、蛇頭を忠実に覚えている。
激しい抽送によってもう一度絶頂へ導かれ、眞言は脱力した。内外の境界は緩み、大蛇の分泌した粘液がこぼれて双丘の間へ消える。大きくため息を吐いた眞言だが、大蛇のうごめく気配に我を取り戻した。
「やめて、くれ……!」
恐怖に襲われる。
これから行われることも、当然知っている。それでも、慣れることはできない。
太い蛇頭に貫かれ、手足はまともに言うことを聞かない。ただ首を振って身体を左右させても、蛇神の意志に逆らうことはできない。
しかし、怖いものは怖いのだ。
痛みを与えられるわけではない。むしろ、もたらされるのは絶対的な快感だ。
惑乱する眞言をよそに、蛇頭はずるずると肉壁をこすり上げながら奥へと進む。
「いや、いや、嫌だ……おかしく、なる……」
やがて蛇頭は行き止まりに差しかかる。奥の壁を軽く突いて、身じろぎをする。新たな抽送を始めるのだろうか。
いや、違う。眞言はもう知っている。
蛇頭は九十度頭を曲げ、更に侵略した。
「がっ、がぁぁっ、ぎぁぁっ……!」
喉から鋭い叫びが放たれる。正気を保つことができない。首に力を込めれば、はらわたの形に盛り上がる下腹を見ることができた。しかも、隆起はどんどん進んでいく。
たちの悪いことに、全身を渦巻いているのは強烈すぎる快感だ。
ヒトでは到達しようもない場所を押し拓かれ、蛇神のものにされる。そのことに、眞言の身体は歓喜の悲鳴を上げている。目からは感情によらない涙が流れ、頬も顎もよだれでべとついている。陽根はだらだらと白濁液を噴き出し、時折潮とも尿ともつかない液体が混じる。
箍が外れているのを、おぼろげな思考で理解する。しかしそのことに反応はできず、ただ全身を痙攣させて、蛇頭の蹂躙を受け容れている。
更に二度角度を変え、蛇頭はとうとう本当の行き止まりに達する。さすがに、この先へは入り込めない。その代わり、盲腸へ鼻先をこすりつけ、細い虫垂に舌を這わせる。只人には思いつくことすらできない経験に、眞言の脳は完全に焼き切れていた。
これほどのことを、十二日に一度は行うのだ。
身体に力が入らない。
ゆっくり目を開けると、己の部屋の天井が目に入る。首を動かすのもおっくうで、眞言はただ己を包む布団の柔らかさを感じる。
なんという淫らな夢を見ていたのか、と思った時もある。だが、手足にはきつく鱗の跡が残されている。開拓されたはらわたは空洞と化して、眞言に違和感を与えている。
夢ではありえない全身の倦怠感に囚われて、眞言はまた今月も犯された……と実感する。
苦痛を感じてしかるべきことで快楽を得て、身も世もなく泣き叫び悶えわめく己に対する絶望は深い。この蹂躙を追い求め、身を明け渡してしまう己こそを、淫乱と言うのだろう。
涙が一条、目じりからこめかみへとこぼれる。
「――御館様」
襖の向こうから、じいやの声がする。鋭い感覚で、眞言の目覚めを感じ取ったのだろう。
「御膳をお持ちしますか、それとも」
「水を持て。食事は口に入らない」
眞言の言葉に短くうなずき、じいやの気配は去っていった。眞言はもう一度身体に力を込めた。なんとか、起き上がることはできそうだ。
喉が涸れるほど叫び、あらゆる液体を流し尽くした後は、水がうまい。
そのことに、眞言は奇妙な爽やかさを覚えるのである。
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