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Hakoniwa 10
三上に頭を撫でられながら、困った表情で固まっている宮部の様子がなんとも素直で正直で、顔見知ったばかりの三上でもなんとか彼の力になりたいと、思わせるなにかがあった。
正直、契約など思いついただけの飾りにすぎない。自分の目の前で燃えさかる部屋に直面した後輩を放置するわけにもいかないしなと、三上は心の中で呟いた。
◇◇◇◇◇◇
営業職の三上と比べて内勤の宮部は比較的帰宅時間に変動がなく、三上よりも早く帰宅する事が圧倒的に多い。その流れで気付けば宮部が夕食を用意してくれるようになっていた。三上は気を使わなくて良いと言うが、宮部は料理が好きなのだと言い張るので、そのうち好きにさせる事にした。
駅からマンションまで徒歩七分。十階建てのマンションの、五階の角部屋が三上の部屋だ。最後の角を曲がるとマンションの南側が目に入る。明かりのついている窓、真っ暗な窓。その中で、自室に明かりがついている事を確認する事が、いつしか三上の小さな楽しみとなっていた。
残業続きで疲れた身体も、帰り道は足取りが軽い。部屋の明かりを確認し、急ぎ足でエレベーターへ向かう。玄関の扉を開くと、暖かな空気と食事のにおいに包まれた。今夜はカレーだなと思いながらリビングへ入ると、キッチンから宮部が顔を覗かせた。
「三上係長、お疲れ様です。お風呂沸いてますよ」
お前は嫁かと突っ込みをいれたくなる出迎え様にも、慣れてきた。
「宮部は入ったのか」
「係長の後に入ります。今夜はカレーライスですよ、もうすぐ出来ますから」
宮部は絶対に先に入らない。一番風呂は家主のものだと言って聞かない。変な所で頑固な奴だと思いながら、三上は温かい湯船に浸かった。
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