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Hakoniwa 9

「お前が良ければ、身の回りが落ち着くまでここに居ていいぞ」  宮部は一瞬首を傾げ、次の瞬間飛び上がって首を振った。 「そそ、そんなとんでもないです!」 「近くに頼れる人間はいるのか」 「大丈夫です、ホテルでもなんでもありますから」 「毎日弁当を持参して節約している奴が、ホテル暮らしか?」 「えっ何故それを」  顔を真っ赤にして慌てふためく宮部の様子が、何かに似ているなと思いながら、三上は腕を組んだ。 「そうだな、じゃあ……契約を結ぼう。それなら宮部も居心地悪くはないだろう」 「け、契約……ですか」  困ったように眉を寄せる宮部を見つめ、三上は口角を上げた。 「宮部がここを間借りする条件として、俺のペットになって貰う」 「ぺ……ペット……??」 「一人暮らしは気楽だが、時々ふと、実家で飼っていたモルモットを思い出すんだ」  正確には母親が飼っていた動物だが、小さくて丸っこくて柔らかくて、なかなかに頭も良くて、可愛い生き物だった。 「お前、小動物っぽいしな」  三上の言葉に宮部は不安いっぱいの表情で、はあと相槌を打った。 「ああ、無理は言わないぞ。この敷地内でのみ有効だ」 「えっと、具体的には何をしたら良いのでしょうか」 「そうか、そうだな……俺がお前をペットと認識している時は、下の名前を呼ぶ事にする。呼んだらすぐに来る事」 「はあ……」 「結音」  名前を呼ぶと、宮部はえっと声をあげた。 「な、何故名前を」 「いいから早く来い」  宮部は困惑した表情のまま、ソファに座る三上の隣に腰掛けた。三上は満足げな表情で宮部の頭に手を置き、艶やかな黒髪を優しく撫でた。 「よし、よし」

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