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Hakoniwa 8

 ぎょっとして振り返ると、宮部は真っ青な表情で、炎に包まれたアパートを呆然と見つめている。 「あの角の部屋、僕んちなんです……」  どうしよう、とうわごとのように呟く宮部の肩を掴んだ三上は、まず落ち着けと声をかけた。  冬の寒空の下で終わる気配のない消火活動をずっと眺めているわけにもいかず、三上は宮部をその場から程近い自分のマンションへと連れて行った。  宮部は見かけよりもしっかりした男だった。  はじめこそ呆然としていたもの、暫くした後に自ら管理会社へ連絡を取り必要事項を確認しメモを取りまとめた。少々落ち着きを取り戻すと、三上が出した珈琲をすすり、そして三上に向かって深々と頭を下げた。 「本当に申し訳ありません、ご迷惑をおかけして……」 「迷惑なんてかかってない、今夜はうちに泊まって休め」  宮部は申し訳なさそうに、ありがとうございますと再び頭を下げた。 「宮部の実家は遠いのか」  今後の事が気にかかり訊ねると、宮部は俯き目を伏せた。 「実家はありません。両親は早くに亡くなって、祖母に育てて貰ったんですが、祖母も二年前に亡くなったので……あ、だから逆に僕、凄く自由なんですよ。所有物も少なくて、ミニマムな生活を送っていたんで、火事で燃えてもそんなに困らないっていうか……位牌は燃えちゃったかも知れないけど、お墓はあるし、全然」  早口で言い終えた宮部の言葉に、三上は小さく、そうかと頷くしかなかった。 「それにしても三上係長、広いお部屋にお住まいですね」  何の変哲もない2LDKの間取りだが、不便はない。部屋を見回す宮部の様子を眺めながら、三上は少々考え、口を開いた。 「宮部、暫くここに住むか」 「え?」

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