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Hakoniwa 7
そんなに驚くかという位の挙動不審な宮部をその場に放置し、自分と宮部の荷物を取りに宴会席へ戻ると、上司の演説が始まっていた。本木に声をかけて早々に宴席を立ち去り戻ると、宮部は座ったままぼんやりと足元を見つめていた。
立てるかと声をかけると、宮部は慌てて顔を上げた。瞳は充血したままだ。
「す、すみません、ありがとうございます」
もたついている宮部に紺色のダッフルコートを着せ、茶色のマフラーを巻いてやる。
「家まで送ってやる、歩けるか? 行くぞ」
「え、えっ! えええっそそそそそんな、そんな」
「うるさい。同じ駅なんだから大したことない。宮部はどの辺に住んでるんだ」
目を白黒させている宮部に早く来いと一喝し、店を出た。
電車の中は比較的空いていて、三上は宮部を座席に座らせ、正面に立った。膝の上に乗せている宮部の拳に目を留めれば、それはとても小さくて、まるで子供の面倒をみる父親のような気分になってくる。
「……夢みたいだ」
ぼそりと呟いた声が聞き取れず、なんだと聞き返すと、宮部は小さく首を振った。
「三上係長と一緒に帰れるなんて、夢みたいで……」
「なんだそりゃ」
「いえ、すみません」
俯いたまま無言になった宮部のつむじを眺めながら、おかしな奴だなとひとりごちた。
駅を出てすぐに、周りの異変に気付いた。遠くで消防車のサイレンが鳴り響いている。周囲からは、どこで火事だと話し声が聞こえてきた。
「西口側の、木造アパートで火事が発生しているようだな」
西の方角に目を向けて三上が呟くと、隣の宮部が突然走り出した。
「あ、おいどうした」
追いかけながら、具合が悪いのに走るんじゃないと声をあげても宮部は止まらない。駅から道を離れ、古い住宅街へと向かえば、人混みはどんどん増して行く。やがて火の手が視界に入り、消火作業真っ最中の火事現場へと辿りついた。古びた木造アパートの二階から、真赤な炎と黒煙が巻き上がっている。
「これは酷いな」
人混みの間から様子を伺っていると、宮部が掠れた声で言った。
「ぼ、僕の部屋……」
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