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いつまでたっても慣れない案件 33
三上に対して恐らく初めて声を荒げたのがこんなくだらない会話だなんて。
息を吐くほどにがっかりして、大きく息を吐きながら、隣に寝転んだ状態で宮部の右手を握っては離し、また握っては離して遊んでいる年上の恋人を軽く睨んだ。
「ほんとに怒らせてしまったのかと不安で怖かったのに……」
恨みがましく呟くと、三上は手の動きを止めて宮部の顔を覗き込む。
「妬いたのは本当だぞ、天野が良い奴でも俺が居ない所で余り親しくするな。天野だけじゃない、俺以外の男、いや女も、人間全部が対象だ」
人間全部。なんて呆れた命令だと思いつつも、大真面目な三上の表情に圧倒されて、思わず「はい」と答えてしまう。答えてから笑いがこみ上げてきて、耐え切れずにプッと笑いを噴き出せば、三上もほんの少し口角を引き上げて微笑んだ。
「俺は本気だ。でないとまた妬く」
三上の右腕に身体ごと抱き寄せられて、裸のまま再び肌をぴたりと寄せ合った。胸に耳を押し当てると、三上の鼓動が聞こえてくる。大好きな人が生きている証を肌で感じる事が出来る幸せ。そう思えば胸がじわりと熱くなった。
自分が思っているよりも、三上は自分を愛してくれているのかもしれない。必要としてくれているのかもしれない。自分が三上を大切に想って、必要としているのと同じように。
愛される事に慣れない自分は臆病でみっともない。そんな自分を誰かに知られるなんて恥ずかしいと思っていたけれど、三上にだけは、恥ずかしい自分も見せる事が出来る。
少しずつ慣れていけばいい。自分に対して少しずつでも自信が持てるように、三上に愛されているのだと胸を張って言えるような自分に、いつか。
(……まだまだ先の事になりそうだけど、近道はないから)
午後の陽が差し込む穏やかな時間を、自分は今、大好きな人と共有している。自分はまた幸せを貰っている。自分もこの人に幸せを捧げたい。出来るだろうか。この先ずっと。
宮部は三上の鼓動を聞きながら目を閉じ、静かに微睡んだ。
<おわり>
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