15 / 20
第15話
「…ん」
朝日の気配を感じて、誠は目を開けた。手元のスマホで時間を確認すると朝の七時。今日は土曜日だからゆっくりできる。
身体を動かそうとしたとき、隣に人の頭があって一瞬驚いた。隣で気持ち良さそうに寝ているのは、小山だ。
(そう言えばゆうべ…、ヤッたんだっけ)
寝顔をまじまじと見る。昨日の最中の、荒々しい顔はそこになく、誠の好みの端正な顔があった。そういえば前回の時も寝顔を見たな、と思い出す。あの時は急に腕を回されて驚いた。今日は腰に腕を巻かれている。
基本的に甘えん坊なのだろうか、と見ているうちに小山が目を開く。
「…おはようございます」
律儀に敬語なのがおかしくてつい、吹いてしまった。
「なんで笑うの」
「お前、ヤってる最中はタメ語なのになんで、ちぐはぐに敬語になるの」
「…クセ、かなぁ…。もう、白河さんお客さんじゃないからタメ語でいいのか」
一人で納得する小山。あんだけ言葉攻めしてきたくせに、と誠はぶつぶつ呟いた。
目が覚めても、誠の身体に抱きついたまま。
「お前、抱きつくの好きなんだな」
「人の体温って気持ちいいから」
「前のときも、無意識に俺に抱きついてきたしな」
「…あの時、起きてたから。無意識じゃないよ」
「へ…?」
射るような小山の瞳が、真っ直ぐ誠を見つめる。
「あの、勘違いだったら悪いけど」
誠はその瞳に負けまいと言葉を紡ぐ。
「…俺のこと気に入ってんの?」
その言葉に小山が笑う。
「気に入ってるって」
なんだよ、と頬を膨らます誠。小山は腰に回してる腕を力を入れて誠を強く抱きしめた。
「そんなレベルじゃない。そばに置いておきたい。一緒にいたい。…俺は」
誠の頬に小山がそっとキスをする。誠はこの先の言葉を、真っ赤な顔をして待っている。
「白河さんが好き、です」
「店と、部屋と…今日の三回しか会ってないのに」
誠は小山の頬を指でつつく。
「うん」
「ノンケのくせに」
「性別なんて関係ないよ、ヤレるし」
「…言葉!」
小山が吹き出したので、誠も笑い出す。
「この先どうする?リオくん」
スルリと小山の手から離れて誠は、背伸びしながらベッドから起き上がった。名前を呼ばれた小山はキョトンとした顔をしている。
「…なんで名前…」
ガウンを着た誠は窓の近くまで行って、カーテンを開ける。
「藤川さんが言ってんだよ。俺、営業だから一回聞いたら覚える訳」
「なるほど」
ノロノロと小山もベッドから出て、誠の横に立つ。窓の外は、夜明けまで降っていた雨が上がり、雲が切れてきて朝日が差し込んでいる。
「あ…虹だ」
ビル群の向こうにうっすらと見えたのは、朝の虹。二人でそれを見ていると小山が抱きしめてきた。
「とりあえず…シャワーする?誠さん」
今度は小山が名前を呼んで、誠が振り向いてキョトンとしていた。
「あ!お前、顧客名簿!住所も盗んだだろ!」
小山は大笑いしながら 抱きしめられていた手を離して浴槽に向かう。
(なんだ、よく笑うやつじゃないか)
その笑顔を可愛いと思ったことは悔しいので、黙っておこう。
三回しか会ってなくて。カラダから入った関係だけど。会いたい、と思った時にはもう恋に落ちていたのかもしれない。それは小山も誠も同じで。
「おいで、誠さん。シャンプーしてあげる」
「元美容師にしてもらえるなんて、贅沢だな」
ガウンを脱ぎながら、小山が差し出してきた手を握る。その手に小山はそっと口づけした。
「これからもシャンプーするから、誠さんの専属美容師として雇ってくれる?」
【了】
ともだちにシェアしよう!