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第20話

視線の先には小山がいた。いつになく、真剣な顔をしている。 「お、お前帰ったんじゃ…」 「あんなこと言われて、帰る訳ないでしょ!そんなことより!何で誠さんはいつまでたっても俺に遠慮してんの?もっと本音、言ってよ!」 涙を流しながらベッドの上にいる誠の身体を、小山が強く揺さぶる。 「これじゃいつまで経っても、セフレみたいじゃん…、俺、誠さん好きだって言ったよね?何で不機嫌になった理由を、教えてくれないんですか?…何で、一緒に住んでくれないんですか…!」 いつも冷静な小山が感極まって怒鳴る。あまりの剣幕に、誠の涙は止まってしまった。 「俺が年下だからですか?頼りないから?やっぱりゲイ同士がいいんですか?俺じゃダメ何ですか?」 その言葉を聞いて誠はハッと気づく。小山もまた、悩んでいたのだろうか。不安に思っていたのだろうか。 小山は誠の肩に顔を埋めて、泣いていた。その頭をポンポンと、誠が優しく叩いた。 「…ごめんな」 その言葉に小山がさらに泣く。まるで小学生のようにしゃくり上げながら。 「もう、帰れって言わないから。な?だから、泣き止んでくれよ」 「嘘だ。俺と一緒に暮らすの、ほんとは嫌なんでしょう?」 「そんなことないよ。明日、理央のもの、一緒に買いに行こう」 「…本当に?」 ジッと見る小山にそっと、誠は小指を差し出した。 「ゆびきりげんまん、な」 「それじゃ足らない」 ようやく涙が止まりつつある小山の唇に、誠がキスする。そして耳元で囁いた。 「理央、大好きだよ。一緒に暮らそう」 その言葉にようやく、小山は笑顔を誠に見せた。 *** 仲直りの後の情事は、いつになく気持ちが良くて。 何度も繰り返しながらお互いの名前を呼んで、絶頂に上り詰めた。 「理央ッ、きもち、イイ…っ」 自分の下で嬌声を上げる誠をウットリと見ながら、小山は奥へ奥へと腰を突きあげながら (まいったな) そう、思った。 本当にこんなにハマるなんて思わなかった。一緒に住みたくなるほど同性を愛せるようになるとは。 初めは確かに好奇心で。そのうち、誠自身をからかうのが楽しくなって。 確かにセックスが気持ちよかったから、続けようかなと軽い気持ちがあったことは否めない。それでも気がつくとすっかり誠にはまっていた。身体だけではなくて。 誠と離れることなんか、できない。 泣くほど一つの物事に執着したのは、久しぶりだ。 「誠さん、大好き」 きゅうう、と誠の中が締まって小山は思わず身体を震わせた。 「ちょ、誠さ…ッ」 いま、出すつもりじゃなかったのに、と一瞬思ったが後の祭りで。 誠の中で小山のソレが放たれた。 *** 1週間もしない間に、誠の部屋は小山のインテリア一色となっていた。 もともとインテリアに興味のない誠だったが、あれよあれよという間に変わっていく自分の部屋に苦笑した。 リビングに置かれた、観葉植物。センスのいい食器たち。どこからとなくいい香りが漂ってくるのはルームフレグランスが置いてあるからだ。 「お前、オシャレさんなんだな」 「一応ね。美容の世界に行ったのも入り口はそこだったし、今の仕事も関わってるから」 観葉植物に霧吹きで水をやりながら、小山が答える。 「今の仕事って、実家の?そういえば何やってんの」 「インテリア系の会社だよ。小売店に卸してるの」 ああだから、センスがいいのか、と感心する誠。観葉植物を見ながら不意に笑う。 「誠さん、ようやく俺の仕事のこと聞いてくれたね」 それはもう嬉しそうに小山は笑う。その顔に誠は面食らった。 (何だ、こんなにも簡単なのか) いつの間にか、臆病になりすぎていて、相手が教えてくれるまで待っていた。 待つだけじゃ、不安になる。だったらさっさと聞けばいいんだ。 恋人なのだから。 「なあ、この前一緒にいた女性は、何者?あの雨の日に見かけたんだけど」 「雨の日…ああ、会社の子だよ!旦那さんのプレゼント買うの付き合ってたんだ」 (何だ、そうなのか) ホッとした誠。一瞬の沈黙の後、誠の顔を覗き込んで、小山がニヤリと笑う。 「あれ、誠さん。もしかして妬いてた?」 それを聞いて、誠の顔が真っ赤になった。 「そ、そんなワケないっ」 「はいはい。そろそろ、昼食出来上がるからお皿並べてね」 ほら、不安はこんなにも簡単に消えていくんだから。 【了】

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