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第19話
「…誠さん、どうしたの?」
その晩。小山は夜、誠の家に来た。いつもより少し遅い時間に。いつもなら小山が夕飯を作ってくれるのだが、この日は誠が振舞った。
いつもより遅かったのは、あの女性と会っていたからだろうか。
夕方見てしまった光景が頭をよぎり、どうにも悪い方向にしか思えない。
様子が変なことに、小山は気付き、誠に聞くものの、何でもないとしか答えは返ってこなかった。
明日は休みのため、食事後は風呂にはいり、ゆっくりしてベッドに入る。いつもならここから体を触り合って…という流れになるのだが、今日は違う。
小山がちょっかいを出そうとして誠に手を伸ばしたが、それを誠が止めたのだ。
「ごめん…今日は、そんな気分になれなくて」
目を合わそうとしない誠。小山はそれでも手を重ねてきた。
「何かした?俺」
「してないから、手を離して」
「やだ」
小山は重ねた手を離さず、逆にギュッと握った。そして誠を見た。
「は?」
ただでさえネガティブになっているというのに、この小山の態度。誠はだんだんと苛々してきた。
「誠さん、何か考えてるでしょ?だから」
「ほっといてくれよ!」
重ねられていた手を払って、誠は小山を睨みつけた。今まで誠に激しい言葉など、浴びせられたことがなかった小山がギョッとした顔をしたが、すぐに冷静な顔となる。
「…じゃ帰る」
離れた手を追うこともしないで、小山は布団から出て行こうとする。
(何だよやっぱり、ヤラなきゃ、帰るじゃねえか)
モヤモヤとイライラと寂しさが一気に誠の中で渦巻いて、ジンワリと目頭が熱くなって来た。わけのわからない感情に、振り回されている。
勝手に不安になって、勝手に小山を疑って。
小山はとばっちりもいいところ。ソレは誠も分かっている筈なのに…
布団を頭からかぶって、誠は嗚咽が出ないように、歯を食いしばる。
(こんなとこ、見られてたまるか)
ギシ、とベッドが軋む音がして、小山が立ち上がったのを感じた。
きっとこのまま帰ったら小山はもう連絡もしてこないかもしれない。
そもそも、小山からしてみれば、誠はちょっとからかっただけの客だ。
少し、関係を持ってしまったら身体の相性が良かっただけで。
彼にとっては、それだけのこと。
きっとまた、女性と付き合うだろう。そして結婚をして幸せな家庭を築いて…。
(そして俺だけが、置いていかれるんだろう)
そう考えて、また涙が溢れた瞬間…
ガバッと、包まっていた布団を剥がされた。
突然のことで誠は驚いて、顔を隠すこともできなかった。
「いい加減、恋人になってよ、誠さん!」
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