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第18話

「はぁぁぁぁ」 「えらいため息ですね、どうかしたんですか」 美容室【Green】でカラーをしてもらいながら無意識についたため息に、藤川が苦笑いする。 「いや、たいした話ではないんで…」 ここで働いていた小山と、一緒に暮らすかどうか悩んでるなんて、いえない。 「白河さん、恋の悩みですか?最近何だか幸せオーラ出てますもんね!」 カラーを手助けしていたアシスタントの友永がそう言ってきたので、思わず慌てる。 「えっ、そ、そう?」 「はい!そうそう恋愛といえば、僕の友人話なんすけどね、出会ってすぐ付き合った子がいるんです。本人は、すぐにでも同棲したいらしいんですけど」 「えっ」 「でも素性もよく知らない男ですよ?一緒に住むなって僕は止めてるんですよ」 何気ない友永の話に、誠はタラタラ汗をかきそうになった。友永は小山が辞めてから入ったはずだから、この話はたまたまなのだろう。 「まあ、若い子はそんな感じじゃないの。友永くんが慎重なんでしょ」 藤川がそう言いながらあれ?と小さく呟き、その手が止まる。不思議そうに鏡越しに誠が藤川を鏡越しにみると、後頭部をじっと見ていた。 「あの、白河さん、言いにくいんですが…。ココに円形脱毛…」 トントンと後頭部を突く藤川。 「十円ハゲ?!また出来てる?!」 誠はまたため息をついた。誠はストレスがたまると円形脱毛が出ることがあり、今までも仕事が多忙になるとチクチクしはじめて2.3日後には円形脱毛になっていた。 しかし最近はそんなに仕事は多忙ではない。むしろ業務量が減って早く帰れるようになっている。 だとしたらこの円形脱毛の原因は…アイツなのかな、と苦笑いする。 恋人の存在が円形脱毛の原因だなんて。 【Green】を出ると雨が降っていた。誠は傘を差し、夕方の街を歩く。薄暗い雨の街では、誰もが足早になっているように見える。 不意に笑い声が聞こえて、その声の方を向いた。 前方から向かってきた男女のグループ。若そうな彼らは何が嬉しいのだろうか、楽しそうに笑っていた。 「やだーもー!そんなことないって!小山くん」 傘をさしていたから、ぼんやりとしか見えなかった。でもその中にはたしかに小山がいた。 (あ…) 小山の方は気づいていないようだ。しきりに隣の女性に肩を叩かれながらも、笑っている。 フワフワパーマの、栗色の髪の毛。可愛らしいその女性は小山にしきりに笑いかけていた。 その様子は仲の良いカップルにしか見えない。後ろにういる男女も仲良さそうに見え、二組の恋人同士のようだ。 すれ違う時、慌てて傘で顔を隠した。 (俺何で隠れてんだ) 普通に声をかければいいじゃないか、と自問自答する。小山だってきっと喜んで… (…喜ばなかったら?) 元々、小山はノンケだ。友人たちにわざわざ男の恋人がいるなんて公表しないだろう。 声をかけて、もし小山が迷惑そうな顔をしたら… ゴクッと生唾を飲む。ダメだダメだと首を左右に振る。 ネガティブになればなるほど、この短すぎる恋は不安ばかりになってしまう。

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