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第1話

(え? ウソ……)  百瀬 茉以(ももせ まい)は、目を疑った。  隣の席に座っている、クラスメイトの片岡 智樹(かたおか ともき)が泣いているのだ。  茉以たち高校2年生は、修学旅行に出かけていた。  今日は、戦争体験者の語り部から、体験談を聞いている。 「B29の落とす焼夷弾で、街は瞬く間に火の海になりました」  もう80歳をゆうに過ぎたお婆さんが、年齢を感じさせないしっかりとした口調で語る。  そして、この老女の母と姉は、はぐれた先で黒焦げとなって見つかった。  戦地へ行った父や兄は、みな戦死した。 「私は、家族のただ一人の生き残りとなってしまったんです」  そんな血を吐くような語りに、生徒たちはみな真剣に耳を傾けていた。  茉以も、その一人だったのだが……。  智樹の目から、ぽろりと大粒の涙がこぼれた場面の目撃者になってしまった。 (か、片岡くん、泣いてる!)  智樹は、クラスではあまり目立たない寡黙な少年だ。  見てはいけないものを、見てしまった気がした。  ただ、その涙はひどく胸に焼き付いた。

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