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22.オブラートに包んだお話

 まさか親友の安田が会社まで迎えに来るとは思ってもみなかった。 (俺が逃げるかもしれないとわかってたわけだよな……)  内心がっくりしながら安田の後を着いていく。 「居酒屋でいいよな?」 「ああ」  してやったりという顔をした親友に連れられて、俺の家の最寄り駅前の居酒屋に入った。これはうちに泊まる気満々だ。とはいえ、内容が内容だけに外で話すわけにはいかない。結果として岡は飲まなかったけど、睡眠薬を使ったことは間違いないし。 「いつから待ってたんだ?」 「定時には間に合うように来たぞ」 「ってことは一時間以上も待ってたのか? そんなに仕事ヒマなのか?」  俺は呆れた。俺を捕まえる為に待ってたなんてご苦労なことだ。 「んなわけないだろ。自由がきくだけだ」  安田の家は不動産業で安田はその跡取りだ。昨年までは一般企業に勤めていたが辞めて本格的に親の跡を継ぐことにしたらしい。結婚相手も早く見つけろとせっつかれているらしいが、下に弟妹が三人いるのでどこ吹く風のようである。  酒を飲みながら夕食をとり、ほろ酔いで帰路につく。家にはチューハイぐらいしか置いてないので途中コンビニで食べ物などを買った。 「ホント、お前って何もやらないよな」 「何が?」 「料理とか」 「んなの普通だろ」  男の一人暮らしにいったい何を求めているのか。岡みたいな例もあるが俺の方が一般的だと思う。  安田は勝手知ったる他人の家で、ハンガーに自分のジャケットだけでなく俺のジャケットもかけた。 「ほら、着替えろ」 「どっちが家主なんだよ」  シャツとズボンを脱ぐと視線を感じた。そちらへ顔を向けると、何故か安田がじっと俺を見ていた。 「安田?」 「寒いだろ。早く服着ろよ」 「面倒くさいなぁ」  長袖のTシャツとスウェット姿に着替えた頃にはエアコンがつき、座卓に缶チューハイと買ってきたつまみなどが用意されていた。岡といい安田といい俺の周りにはまめなヤツが多いようである。いつもなら心ときめくところだが今夜の肴は俺自身だ。 「用意、ありがとな」 「どういたしまして。ほら、座れよ」  向かいではなく隣の席に座らされる。安田はけっこうスキンシップが激しく、いちいち触れてくる。高校の時は少しうざくも感じていたがもう慣れてしまった。さすがにくすぐってくるのはやめてほしい。 「で? ヤッたのか?」  単刀直入に聞かれ、俺は俯いて頷いた。 「うん……」 「それでなんでセフレとかっていう話になったんだよ。結局薬は使わなかったのか?」  どういう風に話せば相手が男だと知られずに済むだろうか。 「ええと……使ったんだけど、使ったことがバレて飲まなかったみたいで……」 「じゃあ襲えなかったのか?」 「相手が寝たフリをしてて……」 「え? ってことはその女……なんでセフレ?」  安田はわけがわからないという顔をした。そして天を仰ぐ。 「整理するぞ。(とも)は薬を使ったが相手にバレていた。でも相手は寝たフリをしていた。それを知らずに襲ったってことか?」 「うん、そういうこと」 「それを受け入れてもらえてセフレ?」 「……だと思う」  特に何も言われてないし。 「思うってなんだよ」 「襲ったことは許してもらえたし、その後もみんなに隠れてヤッてたんだけど何も言われてないし」 「襲ってきた相手に告白するとか、まぁないわな。それでセフレにしてもらったわけか」 「そんなとこ」  安田はため息をついた。 「じゃ、後は恋人になってもらえるように努力するしかないな」 「そうだよなぁ」  岡の柔和な笑みを思い浮かべる。親の遺産でマンション持ちの岡じゃプレゼント攻撃もできないし、岡は俺なんかよりはるかに家事もできるし、俺のとりえって言ったら身体だけ?  それに気づいて俺は青ざめた。やっぱりセフレから恋人に昇格する未来が見えない。 「智?」 「相手が完璧すぎて恋人にしてもらえるとは思えない……」 「そんなにいい女なのかよ」  その後もああでもないこうでもないと話をし、その間に俺は寝てしまったらしい。  なんだか尻穴がむずむずして意識が浮上した。 「んっ……」  尻穴の中に指を入れられているようだ。俺の声で指の動きが止まる。 「だめだ……洗ってないから……」 「……洗ってあればいいのか?」 「うん……岡……キレイにしたら、して……」  あれ? 今夜は岡と一緒だったっけ? まぁいいか。  俺の意識はまた沈んでいった。

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