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36.AVを観てみたら

 月曜日はそのまま帰宅した。明日から一時間ほど残業するようになるかもしれない。そう考えると少し憂鬱だった。  久しぶりに帰ってきた我家は寒々しく感じられた。実際冬だし、何日も空けて冷え切ってるし。自分で自分にツッコミを入れながら明日の予定を思い出す。明日はジムの後安田と合流することになっている。安田は実家住まいだから俺の家にまた来るのだろう。少しは掃除しておかないとなと思いながらなんとなくTVをつけた。  昼間のことを思い出す。  男女の恋愛だって合う合わないがあるのに、俺が岡と恋人になれているのが不思議だった。  岡が俺と同じジムに通っていたなんてさっぱり知らなかった。岡の方は入社前から俺が気になっていたらしい。もしかしたら俺も無意識のうちにジムで岡のことをとらえていたのかもしれない。 (サブリミナル効果? いや、違うだろ)  一人ツッコミをしながらビールのプルタブを起こす。  そういえば、と俺はあることを思い出した。  パソコンを起動してお気に入りのAV動画を出す。あれだけ岡や安田にぐっちょんぐっちょんにされて、俺はまだAVで反応するのだろうかと考えたのだ。  反応しないならばこの先結婚はできないだろう。今は結婚をしない者が多いから親もそれほど気にはしないだろうが、俺自身が確認をしたかった。  ティッシュとコンドームを用意し(汚さない為)、AV動画をかけた。 「…………」  なんというか、白けた。  AV女優のおっぱいは好きだし、顔もプロポーションも好みなのだが、こう、股間にずぐん! とクるものがない。男優のせいなのか演技とか体位のせいなのかは不明だが、俺は首を傾げた。そしてまた他のAV動画を探し始めた。  都合飛び飛びで4本ほどAV動画を見たが、最後の動画以外には全く反応しなかった。そして最後の動画で反応した理由に気づき、俺は愕然とした。  男優の雰囲気が岡に似ていたのだ。 「え、えええええ~~~……」  おっぱいは大好きだ。柔らかそうな身体やくびれ、形のいい尻も好きだ。だが彼女たちに欲情するかどうかというと……何かが違う気がする。そして最後の動画に出てきた男優に組み敷かれる女優のあられもない姿に、ふと自分を投影してしまったことに俺はショックを受けた。 「も、もうダメかもしれない……」  勃ち上がった股間を処理することもできず、俺はそのままフラフラと浴室に向かい、中を洗浄するだけして寝た。最近は毎日中をキレイにしないと落ち着かない。  俺はゲイになってしまったのだろうか。この先女性とイタすことはできないのか。それは思ったより俺にダメージを与えた。  現実逃避で眠ってしまっても変わらず朝は来る。朝になってもショックが薄れたなんてことはなく、俺はのろのろと支度をして出勤した。 「先輩、大丈夫ですか?」  さすがに岡にも心配されてしまった。 「あー、うん。大丈夫、大丈夫。なんかあったら言うよ」  今まではAVでも多少ヌいてたのにいきなりヌけなくなったなんて、岡も聞かされても困るだろう。今夜会うのが安田でよかったと思った。  とはいえ安田に言うのもはばかられる内容だ。いくら俺が抱かれている側とはいえ男であることにかわりはない。  ジムで汗を流せば少しは気が晴れるだろうか。俺はとりあえず棚上げすることにした。  一時間程度の残業の後、ジムに向かう。今日は早めに切り上げて、ジムの近くの店で俺は安田と合流した。 「よう、仕事はどうだ?」  ビールを飲みながらなんとなく聞く。師走はどこの業界も似たりよったりだろう。 「ちらほら物件の見学は入ってるな。まだ異動の内示が出る頃じゃないから成約には至らないが」 「そうなのか」  まだそれほど忙しいという段階ではないようだ。適当にだべって飯を食い俺の家に移動する。途中コンビニで明日の朝食を買った。 「お前少しは料理すれば?」 「これだけ弁当やら惣菜やら売ってるのに? 一人暮らしで自炊する方が不経済だろ」 「智は料理がしたくないだけだろ」 「そうとも言う」  慣れない調理をするなら買ってきた方がいい。 「そういうお前はどうなんだよ?」 「俺は実家だからなぁ」  そもそも調理をする機会がない。似たもの同士だった。  インスタントコーヒーを入れる。 「なんつーか、岡とはえらい違いだよな」 「ああ」 「岡の方がよっぽど嫁っぽい」 「俺もそう思う」  お互い苦笑しながらなんとなくTVをつけた。男同士で嫁も何もあったものではない。夫とか妻とか男女の関係に当てはめてしまうのは悪い癖だ。  俺は安田に昨夜の件を話そうかどうしようか考えた。インポでないことは確かだがAVを見て勃たないなんて話は非常にデリケートだ。もし安田に笑われたらと思うとなかなか言い出すことができなかった。 「智、どうした?」  けれどそんな俺の苦悩はわかりやすかったらしく、いろいろ大雑把な安田にも気づかれてしまった。 「いや……その……」  非常に話しづらい。安田は俺の手を握った。そしてまっすぐに俺を見る。 「……今更止めようなんて、思ってないだろうな?」  低い、肉食獣を思わせるような声。俺は息を飲んだ。  口の中がからからに乾く。 「そ、そんなこと思ってない……」  俺はどうにか声を搾り出した。安田の鋭い目が真偽を問う。その眼差しに俺は尻穴がきゅうううん、と収縮するのを感じた。  やっぱり俺はゲイになってしまったのだろうか。 「本当か?」 「……くどい」  頬が熱い。 「じゃあ、何かあったのか?」  更に追求される。そんなに気にしないでほしいのにそういうところは頑固だ。俺は嘆息し、仕方なく白状した。

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