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週末(社会人四年目:七月) 1
土曜日の夜。
恋人ハルの家のリビングで、大好きなバラエティ番組を観ながら腹を抱えて笑っていると、突然家主が話題を振ってきた。
「は? 今後は金曜の夜から来い?」
「うん、だめかな」
突然の要望に顔をしかめる俺と、爽やかな笑顔で俺の手をとるハル。この男、外見と外面だけは本当に爽やかなイケメンなのだ。こいつが笑えば誰もが振り返る。大学時代のバイト先でも、この男は段違いに客受けが良かった。
そんな男と俺が何故恋人同士かというと……説明を始めたら長くなるからそこは割愛するとして。まあ色々あってこの関係に落ち着き、丸三年。といっても付き合い始めから今年の春までずっと、千葉と愛知の遠距離だったけれども。
「……月曜から金曜までびっちり仕事、土日も月の半分は休日出勤させられて、ヘトヘトになっても休みの週末は埼玉から一都跨いで電車乗り継いで千葉のお前んちまで会いに来ている」
「うん、いつも来てくれてありがとう」
「く、苦し! 加減を知れ!」
長い腕にぎゅううと抱きしめられてもがくのはいつもの事だ。いつもの事だけれど、毎度本当に苦しいのだ。男同士で何故こうもいちゃつきたがるのか。
しょんぼりした表情でゴメンと謝り、やっと腕を緩めたハルの胸に寄り掛かる。ふうと息を吐き、再びテレビに目を向ければ楽しみにしていたコントが終わっていた。酷い。楽しみにしていたのに。
「省吾、だめかな」
ハルの中では先程の会話は終了していないらしい。
背後から絡みつくハルの腕を剥がそうとしても、一ミリも剥がれやしない。放せと身体をよじれば首筋にがぶりと噛みつかれ、痛ぇと声を上げた。
「ったく、噛みつくな馬鹿。金曜なんて何時に仕事終わるかわかんねぇし、営業だから飲み会も多いし、早く上がれたとしたってここまで来るの大変なんだぞ。疲れんの。俺にも休みをくれ」
「じゃあ俺がいく」
今回は随分しつこく食い下がるな。
なんなんだ?
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