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会いたいと願う気持ち 39
「あー、俺も行った事ないんだよな。どうだろうな。交通事故死者数ワーストを貫きまくってるって聞くよな」
「ああ、まあ、うん、どうだろうな……」
「あとはなんだろな、派手なイメージもあるな。名古屋城、金ぴかのシャチホコとかあるんだろ。味噌カツは美味いよな、手羽先、味噌煮込みうどん……」
「はは、その辺俺もさっき考えた」
「さっき?」
「ああ、省吾の勤務先が名古屋になるって聞いて……」
ハルの声が途切れて、沈黙した。周りの声がやかましい。ハルの横顔をチラリと見上げると、視線を落とし、ついでに肩も落としているように見えた。お前ともなかなか会えなくなるなと言いかけ、すんでのところで口を閉じる。まてよ、そもそもこいつは俺と会う気があるんだろうか。バイトでの付き合い自体、それほど長くもなかったしな。
そう考えたらこの縁は、簡単に途切れてしまうものなのかもしれないと、ふと思った。
そもそも自分の性格上、名古屋に住み始めたらもう、こっちに戻ってくるなんてせいぜい正月が関の山だろうと簡単に想像がつく。
「そのうち、来いよ」
口をついて出た言葉に、自分自身が驚いた。隣のハルの方へ顔を向けられないけれど、ハルがこちらへ顔を向けた事はわかった。
「名古屋に?」
「観光案内位は、してやるよ」
腹をくくって言葉を付け足したものの、ハルはそこから俺を見入って黙ったまま。段々と沈黙に耐えられなくなり、思い切ってハルへと視線を向けてみれば、ぼやっとした表情で俺を見つめて固まっていた。
「黙るなよ、俺が恥ずかしいじゃねーか」
「ごめん、びっくりして……」
「何でだよ」
恥ずかしさがイラつきに変わってきた。遊びに来いよっていうのは、変な事だったんだろうか。なんて言えば正解だったんだ。
(でも、嫌だなと思ったんだ)
このまま、お互いなにも言わないまま、会えなくなるのは嫌だと思った。ハルはなんかずっと暗いし、じめじめしてるし、なんも言わないで終わりにしそうだし、だったらもう、俺から言うしかねぇじゃねえか。
「もう会えないと思ってたから」
「は? 何で」
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