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会いたいと願う気持ち 41

◇◇◇  入社後一ヶ月間は新人研修で、慌ただしく過ぎ去った。  最後の一週間は研修センターで缶詰にされたものだから、互いに励まし合ううちに同期達との仲間意識も高まり、最終日には定期的に同期会を開こうなんて話題になっていた。それには大して興味はないが、同じ愛知県に配属が決まっている同期の林とは連絡先を交わし、引っ越しが終わったら飲みに行こうぜと話をまとめて解散した。  新居は上司が選んでくれたという賃貸マンションで、会社の社宅制度により、家賃光熱費込みで毎月五千円が天引きされる。二十九歳までという条件付きだけど、これは本当に良いシステムだ。自分で住居を選べないとか、全然どうでもいい。主要生活費がひと月五千円。天国過ぎる。最寄り駅から徒歩圏内だし、建物自体も比較的新しくて綺麗だし、1LDKと十分な広さ。といっても寝る場所と生活場所を分ける必要はないので、仕切りを開け放して1Kにすると思う。  その新居も、先週末に鍵を受け取ったので確認済みだ。配属先の営業所へ挨拶に行き、俺の教育係に任命されたという、三年先輩の佐川さんが鍵の受け取りまで立ち会ってくれた。  佐川さんは、人好きのする笑顔でいかにも営業マンといった感じだ。印象の良い先輩で少しほっとした。見るからに体育会系の先輩とかだったら多分俺はキツかった。 ◇◇  四月二十九日、引越し当日。  運ぶ荷物も殆どなかったから、引越し業者も単身引越しパックで依頼しておいたのだけれど、担当者が荷物一式を確認した時に、余りの少なさに驚いていた。家電も殆ど現地で購入する予定だし、むしろ引越しセンターに依頼する必要もなかったような気もするけれど、費用は会社持ちなのでそこは遠慮なく活用させてもらう。  世話になったアパートに別れを告げ、早々に名古屋行きの新幹線に乗り込んだ。  東京から名古屋まで、時間にして二時間弱。あっという間だ。  新幹線の車窓から外の景色を眺めているとライン通知が入り、スマホを開けば佐川さんからだった。俺の引越しが今日だと覚えていてくれたらしく、夜暇なら軽く飲みに行かないかというお誘いだった。初名古屋の夜だと思って気を使ってくれたのだろうか。少し考えて、「ご迷惑でなければ是非」と返信を打った。

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