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会いたいと願う気持ち 50

 こいつは何で俺なんかに、そんな言葉を口にするんだ。俺の何がいいって言うんだ。そんなに真っ直ぐに気持ちをぶつけられたら、もう逃げ道なんて、何処にもない。  再び唇が重なり、開いた隙間からハルの舌先が控え目に侵入してきた。体温を確かめるように、ゆっくりと絡みつく。それに応えて絡み返せば、ハルの身体が僅かに震えた。 「省吾、好きだ」 「……そんな、簡単に言うな」 「簡単じゃない、でも他に言葉が見つからない」 「っ……」 「好きだ……」  額と額が触れ合うと、そこから熱が伝わってきた。冷え切っていたハルの身体は熱をもって、温かみを増していく。ハルの両手が俺の頬を包みこみ、鼻先と鼻先が触れる。唇が重なる直前に、ハルは微かな声で囁いた。 「誕生日、おめでとう」    再び唇が重なった。もう何度キスをしているんだろう。 (でも、……嫌じゃない)  俺は両腕をゆっくりとハルの腰へとまわして、それを受け入れた。舌先が触れて、絡めあう。柔らかなキスから、貪るようなキスへと変化していく。息が苦しくなるほどに、角度を変えて何度も何度も、キスを繰り返した。  やがてお互いに息を吐いて、どちらからともなく抱きしめあった。ハルに体重を預けて、大きく息を吐く。がちがちに固まっていたはずの体が、気付けば肩から力が抜けていた。 「わかんねぇけど……嫌じゃ、ない」  ハルの顔は見えないけれど、更に強く抱きしめられて、流石に苦しいと文句を言った。文句を口に出したらなんだか可笑しくなって、喉からくっと笑いが漏れた。 「つかいい加減、いつまで玄関で止まってるんだ。もう陽も昇ってるし」  ハルも「そうだね」と言って小さく笑う。 「お前、眠くないの? 俺は眠いんだけど」 「正直、倒れそうなくらい眠い」 「だろうな」  身体を離し、とにかくお前は靴を脱いではよ上がれと言葉で急かした。 「とりあえず今俺達に必要なのは睡眠だな。布団敷くから寝ようぜ。起きたら電器屋とホームセンター付き合えよ」  靴を脱ぎながら、ハルは嬉しそうに頷いた。  これからどうするかはとりあえず、寝て起きたら考えよう。  まあいろいろ、まるっと前向きに考えたらいい。だって相手はハルだ。 「省吾、今日は急に押しかけてごめん」 「なんだよ、いまさら……」 「でも後悔はしていない」 「あっそ……」  隣に寝転んだハルへちらりと視線を送れば、嬉しそうに微笑んでいた。 「省吾、おやすみ」 「あー、おやすみ」    口角を上げたまま目を閉じたハルを視界の端で確認してから、俺も目を閉じた。にしても朝陽が眩しくて辛い。ハルは大丈夫だろうか。 (こりゃ絶対カーテン買わねぇとダメだな……)  そんなことを考えながら、朝陽が差し込む部屋で、ハルと俺は肩を並べて眠りについた。 <終わり>

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