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冬の夜をきみと 7
事務所に戻るなり所長に呼ばれ、佐川さんと俺は明日出勤しなくていいと言われた。
「向こうで応援人数を増やしたから、こっちは減らしていいってさ。お前達ふたり、休んでいいぞ」
マジか。やった!
所長に挨拶をして席に戻り、書類を広げながらふとハルの顔が頭に浮かんだ。
明日一日一緒に居れるなら、ハルの機嫌も直るかな。あいつが行きたいところへ出かけよう。どこだろう、博物館とか好きそうだな、あとは……。
(そういや仕事どうなったかな、あれから連絡ねぇな……)
「香取どうだ? そろそろ上がれるか」
しばらくして佐川さんに声をかけられ、慌てて書類を机の端へ片づけてコートを掴む。
「はい、上がります」
「よし、帰るぞ」
お先に失礼しますと周りに声をかけながら事務所を出ようとした時、他の先輩に声をかけられた。
「何だお前ら、クリスマスにふたりで飲みか」
佐川さんは笑いながら、そうだよ邪魔すんなと答えている。さすがブラザーなどとからかわれて、俺も一緒に笑った。
駅前の小さなやきとり屋に入り、カウンターに並んで座った。生ビールで乾杯し、ふたり揃って喉を鳴らしながら一気に煽る。寒い日でも生ビールはやっぱり美味い。
「佐川さん、今日は約束ないんですか」
「ああ、うん俺はな……人待ちはする」
「人待ち?」
「うん、そう」
まあとにかく約束はあるって事かと納得し、ねぎ間串を齧る。
周りの客層に目を向けると、仕事帰りのサラリーマンや若い学生達が、笑いながら酒を飲み交わしている。日常的で、クリスマスムードのかけらもない。気分的にも落ち着く店だ。
「香取の彼女は、こっちにいるのか?」
「いや、千葉……」
さりげなく話題を振られ、思わず素直に答えてしまった自分に焦った。
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