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冬の夜をきみと 8
「あー、いや……彼女とかじゃないんですけど」
何で言い訳してんだ。佐川さんからしたらどっちでもいい事だろうし。
ただ、なんか、なんでだろう。
ぐっとジョッキを煽る俺を眺めながら、佐川さんは目を細めて笑った。
「お前が会いたいなら、好きな相手なんだろ」
会いたい。
「……そ、うですね、うん、まあ……」
ゴニョゴニョと答えた俺が可笑しかったのか、肩を揺らして笑っている。
「大丈夫かお前。気持ちなんてもんは、ちゃんと言葉や態度で表さないと相手には伝わらないぞ」
「はぁ、そ、ですね……」
「でも千葉か、ちょっと遠いな。淋しがってるんじゃないか」
「……どうですかね」
いや、すげぇ淋しい淋しいいわれてるけど。
てかこのネタ、そろそろ終わりにしたい。うっかりボロが出そうでこわい。
などとビクつきながら、新たに届いたつくね串に齧りつく。
「会える時間は沢山会って、伝えたい気持ちは悩まず全部伝えておけ。何かあってから後悔するのは……キツイからな」
そう言った佐川さんの目は俺を見つめているようで、遠くを見ているようにも見えた。
「佐川さんは、何か後悔したことあるんですか」
「はは、そうだな。まあ沢山あるけど……後悔してもしたりない程の、消えない後悔は辛い」
消えない後悔。
そんなの、俺はまだしたことないな。
(そもそもあんまり後悔とか、したことねぇしな……)
佐川さんの言う『消えない後悔』って、どんな気持ちなんだろうか。
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