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冬の夜をきみと 9

「佐川さ……」  思い切って聞いてみようとした時、上着の内ポケットでスマホが震えた。  着信表示はハルの名前。  すみませんと席を立ち、店の外まで出てから通話ボタンを押した。 「はい」 『ごめん、まだ仕事中?』 「いや、早目に上がれたから先輩と軽く一杯……」  思いきり素直に答えてから失敗したと気付く。沈黙が恐い。 「あー、あのさ」 『……今朝の教育係?』 「失礼な言い方すんな、佐川さんは良い先輩なの」 『そっか。そっち行けなくなったけど、良い先輩と楽しく飲んでるなら、省吾は淋しくないだろうし、良かった』 「え? やっぱ仕事終わんねーの」 『チーム内でミスが発覚したんだ。修正かけるのに下手したら徹夜になるかもしれない』 「そっか、大変だな」 『省吾は先輩と楽しいクリスマスを過ごしたらいいよ』  うわ、何その刺々しさ。  やっぱムカついてんな。 「ハル、俺さ、明日……」 『明日も仕事だろ。元々無理矢理なスケジュールだったし、我儘を言って悪かった。今日はゆっくりして』  一方的に電話を切られ、通話音が虚しく耳に響く。  なんだよあいつ、あの態度。明日休みになったし、今から俺が行ってもいいかって、聞こうとしたのに。 「聞きもしねーし……」  くだらねぇ事でプリプリしやがって。 (あ、何かすげぇムカついてきた……)  面倒くせぇ。  何がクリスマスだよ、どーでもいいし。

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