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冬の夜をきみと 10

 ムカムカしながら席に戻ると、ビールから熱燗に移行した佐川さんが枝豆を口に放り込んだところだった。 「ん、どうした。喧嘩でもしたか」 「えっ! な、なんで」 「真っ赤な顔して眉間にシワよってるし」  ハッと眉間を手で押さえると、また笑われた。 「いや喧嘩とかじゃ……佐川さん、熱燗ですか」 「うん、飲むか?」 「はい、まあ弱いんでちょこっとだけいただきます」  お猪口をくっと煽り、美味いなとひとりごちる佐川さんを横目に、俺は舐めるようにちびりちびりと酒を飲む。寒い夜の熱燗は、あったまる。ふと、昔の出来事を思い出した。 (あれは、おでん屋だったな)  一年前の、冬の始め。  深夜にバイトを終えた後、彼女に大泣きされて散々な目にあった。 (その後ハルとおでん屋に行って、こんなふうにちびりちびりと、熱燗を飲んだっけ……)  あの日も寒い夜だった。 「で、相手は来れそうなのか」  佐川さんの声にハッとする。先輩の前なのにぼけっとしてしまった。 「あー、何か徹夜になっ……えと、仕事終わらないみたいで、まあ今日はナシっていうか」  危ねぇ、徹夜で仕事とか口にするところだった。 「ところで佐川さんは時間大丈夫ですか? 何時から」 「ああ、うん。俺は……人を待つだけだからな」  ちまちまと酒を飲みながら、佐川さんの言葉がよくわからず少し考える。  人を待つだけ、ってなんだ? 「待ち合わせじゃないんですか」 「待ち合わせだよ」 「んじゃ、いい時間まで付き合いますよ、俺予定なくなったし」  特に深くも考えず口に出した言葉だった。  正面の佐川さんが少し目を大きく開いて固まったように見えて、それからふっと笑ったのを見て。  俺が少し、驚いた。

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