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二月十一日(社会人四年目:二月)1
二月十一日はハルの誕生日。
といってもこれまでお互い特にプレゼントのやりとりをした事はない。
別にモノはいらない、というスタンスが一致しているのが理由。
なので大抵、ふたりで少し遠出したり美味いものを食べに行ったり、そんな誕生日を過ごす。
でも今年の俺は、ハルへの誕生日プレゼントを少し前から用意しているのだ。勿論ハルには秘密。
「ハル、誕生日どっか行きたいとこあるか。休みだし」
コタツで蜜柑を剥きながら何気なく話題を出してみると、同じく隣で蜜柑を剥いていたハルの目がキラキラと輝きだした。
「省吾がどこかへ連れていってくれるの」
「まあでも単発休みだし、近場な」
「うん、あ、行きたいところある」
自分のスマートフォンを手にとり何やらネット検索を始め、直ぐに画面を俺に見せてきた。
「縄文、スーパースター?」
「うん、土偶展!」
「土偶……?」
反応イマイチな俺に、目をキラキラさせながら熱弁を始めるハル。
「これスゴイんだよ、日本各地の貴重な土偶達が集結するんだ!」
「ふぅん」
蜜柑を口に放りこみ、公式サイトを流し見る。
「二月十日から始まるから多分混んでると思うけど……駄目かな」
俺の顔を覗き込み、あでも終わり頃に独りで行ってもいいんだと付け足す。
「いいじゃん、そこいこ」
「いいの?」
「お前の説明ついてくんだろ。縄文なんちゃら」
食べ終えた蜜柑の皮をたたみながら答えると、ハルは嬉しそうに笑った。
「多分省吾もハマると思うよ!」
……そこはまあどっちでもいいわ。
土偶に興味はないけれど、ハルが嬉しそうな顔をして楽しみだ楽しみだと連呼するもんだから、俺も楽しみになってきた。
ハルの腕が伸びてきて、緩やかに押し倒される。目を瞑れば唇に柔らかい感触。ついばむようなキスの後、上唇と下唇を交互に甘噛みされ、それからハルの舌先が線を描くように俺の唇の表面を滑る。ゾクリとする快感に身体が震え、ぎゅっと目を瞑れば、隙間からハルの舌先が入り込み、今度はゆっくりと歯列に沿ってなぞられていく。口内でお互いの舌を絡めあい、音をたてて何度もキスを繰り返す。
「省吾、大好きだよ」
俺を見下ろすハルの表情は優しくて、その言葉に俺も応えたいと思うんだけれどやっぱり恥ずかしくて、代わりに無言でハルの頬を撫でた。再びキスを繰り返し、やっと唇が離れたあと、微かな声で、俺も好きだと呟いた。
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