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夏の王様 15

 動揺しつつもうまい言い訳を頭の中で必死に捻り出そうと目を白黒させていると、そんな俺がおかしかったのか、伊勢さんはクッと小さく喉で笑った。 「この間お前、事務所でシャツにお茶を零されて着替えていただろう。あの時リングが見えて、不思議に思ったんだよな。プレゼントだって言ってたのに、自分で身につけているのかって」  ブワッと全身が熱くなる。こめかみから汗が出そうな気がして慌てて額を拭ってみたけれど、まだ汗は出ていない。  そ、そんな一瞬をいつのまに。なんて目敏い人なんだ。  いやそれよりも、自分がなんだかとても残念な男と思われているようでならない。それはそれで、まあまあ心外だ。 「まあそんな事すぐに忘れたんだけど……さっきアイツに礼を言われて、ふと思い出した」 「礼?」  物凄く嫌な予感がする。 「プレゼントのアドバイスをわざわざありがとうございましたって。お前の同居人」  でた。 (アイツ、早速余計な事言ってんな…!) 「いや、あの……」  どう切り替えそうかともたついていると、伊勢さんは口角を引き上げさらりと言った。 「お前、随分と小難しそうな奴と付き合ってるんだな」  全身から汗が噴き出した。 「い、いや、あの、あー……」  もだもだと言い訳を考えていると、隣の伊勢さんは「ああ、まあそうだよな」と独言のように呟いた。 「周りには秘密か」 「いやあの……秘密、っていうか」  そんな関係じゃないと、一言言えば済む事なのに、それがどうしても言えない。  言ってしまったらハルと自分の気持ちと記憶が黒く塗り潰されてしまいそうで、どうしても言葉が出てこない。 「そんなに難しい顔をするな」  伊勢さんの言葉に顔を上げると、いつもの涼しい表情のまま、ほんの少し目を細めて俺をじっと見つめていた。 「……難しい顔、してます?」 「眉間に皺。緩めたら」 「はあ……」

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