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第1話
手元には見知らぬ文字で綴られた契約書が一枚。下の方に父親の署名があり、俺はその横に自分の名を書くよう求められていた。
部屋にいるのは腹違いの兄と父親、それに異国風の布を被った男達だ。
契約書の内容については聞かされなかった。だがどんな内容であれ、俺にはそれに名を記す以外に方法がない。
ゆっくりと丁寧に名前を書く。後藤聖也、それが俺の名前だ。
ペンを置くと、その書類はソファで待つ褐色の肌の気難しそうな老人の元へと届けられた。
女手一つで俺を育ててくれた母親が突然病に倒れた。診断名は脳腫瘍。
難しい場所にできたとかで、仮に手術が成功したとしても、その後の追加治療やリハビリに金が必要になる。高卒で働き始めて、先月成人式を済ませたばかりの俺には手の届かない額だ。
藁にもすがる思いで、長年顔も合わせなかった父親の元へも行ったが、会社の経営が思わしくないとかで、いい顔はされなかった。治療費の代わりに、名も知らぬ異国に行くことが条件として出された。
要は売り飛ばされたらしい。
連れてこられたのは、国王が神様みたいに崇められている南の島国だ。レアメタルだか宝石だかの鉱山が見つかって俄か成金になった国だが、それまでは名前を聞いたこともない王制国家。日本語はおろか、英語さえ通じる人間がほとんどいない。
そこの娼館らしきところに身一つで放り込まれ、俺は着ていた衣服を残らず剥ぎ取られた。訳が分からず抵抗する俺を、ここの男たちは二人がかりで押さえ込み、無理やり尻の中まで洗浄して、ペニスの根元にリングを嵌めた。――それで俺は自分の立場を悟った。
ここへは、性奴隷として売られたんだってことを。
暗い寝室に薄っぺらい寝間着一枚でベッドに座り、俺は客を待っていた。
尻には丸い練り物が詰められている。それがさっきから体温で溶け出して、じわりと滲み出てきていた。
漏らさないように我慢しているとそこがむず痒くなってきた。媚薬でも混じっているのか。尻がむずむずして、前が緩く勃起しかかっている。体全体がひどく熱っぽい。
契約書にサインをした時点で、ある程度のことは覚悟していたつもりだ。普通に働いただけで何百万、あるいは何千万に及ぶ治療費を稼げるはずがない。だが、まさか男相手にウリをやらされるなんて想像もしなかった。
一体どんな客を相手にするんだろう。どのくらい勤めれば日本に帰れるのか。生きてお袋の顔を見られる日はあるのか。
考えるほどに不安がこみ上げてくる。自分で選んだ道だと言い聞かせてきたが、いざとなると後悔しかない。元気になったお袋の顔を思い浮かべようとしたけど、うまくいかなかった。
その時――戸口の布が揺れた。
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