2 / 3
第2話
重い溜息をついたとき、扉代わりの仕切りの垂れ布が揺れた。――ついに客が来たんだ。
部屋には灯りがないから、窓から淡く透ける星明かりだけが頼りだ。
一体どんな相手かと目を凝らしたが、暗闇の中、相手の肌の色も闇に溶け込んで人相も定かじゃない。ただ、浮き上がったシルエットが、俺よりも長身でかなり逞しい体つきだと告げてきた。
若いのか年寄りなのかを見極めようとしていた俺は、不意に寄せられてきた顔に反射的に逃げそうになった。と、強い力で肩が掴まれ、後頭部を押さえられて口を塞がれる。
「んっ……!」
礼儀も何もあったもんじゃない。俺に身の程を思い知らせるような、荒々しいディープキス。閉じた歯を分厚い舌が拗じ開けて滑り込んでくる。その感触にぞくりと身震いがした。
「……っん、あっ……」
押し返すように胸に添えた手は、胸板の分厚さを伝える。興奮して汗ばんだ男の体に恐怖を煽られた。
ああ、今からでも逃げ帰りたい。でも、どこへ逃げれば?
ここは日本から遠く離れた島国で、俺は金と引き替えにここへ売られてきた。
慣れるしかないんだ。慣れて、稼いで、一日でも早くここを出るしかない。
「ん、う……」
相手の舌に舌を絡ませて何とか応えた。相手はがっつくように口の中を貪りながら、俺をオモチャのように好きに扱う。
「あ……」
合わせるので精一杯なうちに、俺の薄い寝間着は剥ぎ取られた。相手の男の手が、首筋、鎖骨、脇の下に伸び――――乳首に触れた。
「ぁうっ……んんッ!……」
抓まれて痛みに身を竦めたら、次には指の腹で乱暴に捏ね回された。痛かったのに、その瞬間、腰の奥に甘い痺れが走った。
力んだ拍子に溶けた尻からは軟膏が零れて、乳香のような匂いがベッドの上に広がる。
「……」
相手が笑った気配に、俺は顔を真っ赤にして思わず胸の手を払いのけた。――――途端、抵抗を叱りつけるように、足首が掴まれ高々と持ち上げられた。
「あっ」
軽々と膝を折り曲げて二つ折りにされ、尻が剥き出しになる。無作法を罰するように、無防備なそこに指がいきなり入ってきた。乱暴な仕草に体が竦んで、抵抗できなくなる。それをいいことに、指はグイグイと中を抉ってきた。
溶けた軟膏が潤滑剤になって、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。中を掻き回されるうちに腰の後ろから妙な感覚が湧きだした。なんだか嫌な予感がする。
「……頼むから、そっとして……バージン、なんだ」
俺は顔から火が出るほど恥ずかしい言葉で手加減を願った。さすがにバージンぐらいは通じるだろうと思って。
だが、それを聞いた相手はますます中を大きく拡げる。
「……くそッ」
悔しくて罵らずにはいられない。指は狭い通り道を拡げるように円を描いた後、二本、三本と増やされた。引き攣るような痛みに呻いても容赦なしだ。
背中を寒気が走った。
こんなところで怪我をしても、売春宿がまともな医者に診せてくれるとは思えない。勤めを免除される保証もない。怪我をしたら、負けだ。
ここでは自分の体は自分で守るしかない。逆らえないなら、従順になるしかない。
「お願いだから、ゆっくり……」
通じない言葉で懇願して、俺は体の力を抜いた。逆らいも逃げもしない。だから乱暴にしないで。
「ん……」
今度は通じたのか、指の動きが変わった。
根元まで深く埋めて、ゆっくり引き抜かれる。また奥までぐっと入れて、内側を揉みながらゆっくり抜いて――。
単調な抜き差しを繰り返されるうちに、いつの間にか俺は勃起していた。それが分かったのは、根元に嵌められたリングが窮屈で苦しくなってきたからだ。
「……痛い」
気がついたときには、幅広のリングが根元に食い込んでいた。
外そうと躍起になる俺の手に、大きな掌が重なった。外してくれるのかと思ったら、潤滑剤を塗したその手は俺のペニスをぬるぬると扱き始めた。
「や、めろ……!、痛い……」
尻に収めた薬のせいか、弄られるとどんどん勃ってきてしまう。だが勃起すればするほどリングが肉に食い込んで苦しい。
それに指が腹の内側を揉むたびに、下腹に痺れるような快感が走って余計に硬さが増す。俺の前は、もう腹につきそうなくらい反り返っていた。
「あ!……あ!……」
イキそう……でも、出せない。根元のリングに締め付けられて、絶対に射精できないようになっている。その状態で尻の奥をぐりぐりされたら……!
「止めろ……そこ、弄るな、ぁあッ!」
言った瞬間、急に鋭い快感が駆け上ってきて、俺は悲鳴を上げて尻を突き出した。無意識のうちに腰がびくびくと跳ね上がる。根元まで刺さった指がさらに中を掻き回した。
あ……駄目だ、出る!
「イッ、ク……!」
昇りつめる感覚に、俺は全身を強張らせた。張り詰めた亀頭が俺の腹を打って、精液を吐き出そうとする。なのに、締め付けられて一滴も出てこない。出てこないから、終わらない。
「くぅぅ……!」
指に押されるたびに、ずっと射精してるみたいに、イキッぱなしだ。イキッぱなしになってる。尻の中が気持ちよくて、……イッてる!ああ、嫌だ、イッてる!
「出、る……ぅッ」
全身を痙攣させ、鼻にかかった喘ぎを漏らして、何度も何度も高みに昇らされる。
一体どこまで昇っていくんだ。
「もう、嫌だ……気持ちよすぎる……」
終わりのない快感に怖くなって泣きながら許しを請うと、指は唐突に抜けていった。昂ぶった体をあっけなく、急に放り出されて、燻る熱が切なさを呼ぶ。
どうしていいか分からずモジモジと尻を揺すっていると、その尻の肉が両手で掴んで拡げられ――指よりも遥かに太い牡の塊が、俺の体を容赦なく貫いた。
ともだちにシェアしよう!