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ボランティア研究部・夏計画
七月に入り、ボランティア研究部で新しい議題が持ち上がった。すなわち、夏休みの活動についてである。
夏休みにはひとつ大きなことをしようと瑞樹は考えていた。
毎年しているように、合宿の予定はある。遊ぶのは勿論であるが、部活の合宿なのだ。それよりメインなのはその先での活動。ボランティア研究部としてふさわしい活動をするのだ。
去年のことを考えつつ、会議をおこなった。一年生からも意見を取り入れたかったので、部室にぎゅうぎゅうになってしまったが、部員全員を招集した。
まずは去年の合宿模様について説明する。海へ行ったとか、小学生相手に活動したとか、詳しく話す。
去年もいた二年生と三年生はよく知っているだろうが、一年生は初めてなのだ。みんな、真剣に聞いてくれて前で話す瑞樹はほっとしたものだ。
「それで、今年の活動だ。ボランティアとしてメインになりそうな案を出してくれ。合宿先はそれも考慮して、ある程度自由がきくから」
まずは話し合っていいぞ、と言ったので部室の中はざわざわしだした。ボランティア研究部の部員たちは真面目な者が多い。
ボランティアは『ひとのためになにかをする活動』である。そりゃあ真面目な者が集まるだろう。そうでなかっただろう者たち、多分興味本位でやってきた者たちはとっくに辞めていったし。
部員のことを、瑞樹は信頼していた。たまにいさかいが起こったとしても、少々のことなら収める自信もある。あまり心配はしていなかった。
「なんか売るのはどうでしょう」
その中で言ったのは、二年生の浅倉(あさくら)だった。活動にも特に積極的な後輩で、瑞樹はひそかに次期部長としてもいいだろうな、と考えている部員だ。
「なにか……手作りのものとかか?」
瑞樹が答えたことで、部員の視線が浅倉に集まる。
「はい。たまにあるじゃないすか。マルシェ? とか、そういうハンドメイドや要らないものを売ったりとか、そういうイベント」
ああ、駅前でたまにやってるよな。
日曜日とか……。
俺、見に行ったことあるぜ。結構楽しい。
ざわざわと部員たちが話しはじめる。いずれも好感のある反応だった。
「夏休みには大規模なものがありそうですし、それに出展するって手もありますし」
書記がホワイトボードに『マルシェ』『なにか売る』と書いていく。
瑞樹はそれをちらっと見た。そして机の並ぶほうを見る。書記のもう一人がノートに同じ内容だろう、それを書きつけているのも見る。計画は順調そうだ。
「うん、いいかもな。なんか知ってるやつはいるか?」
瑞樹の質問には一年生が手をあげた。
「私、ハンドメイドするんですけど、ラージサイトで大きいのをやりますよ。いとこについていって去年出したんです」
女子生徒のその意見から詳しい話が出てくる。瑞樹は机の上にあったタブレットを引き寄せて、イベント情報を検索する。確かにそのイベントが夏休みのど真ん中にあるようだ。
ラージサイト、東京では一番大きいであろうイベント会場。つまりそのイベントの規模もかなり大きいというわけだ。
「でも私がやったわけじゃないのでよく知らないんですけど結構前から申し込みとか要るみたいで……間に合わないかもしれません」
彼女はちょっと気が引けた、という様子で言った。提案したのだから、駄目かもしれないというのは申し訳なく思ったのだろう。
確かにその問題があった。けれど瑞樹は彼女に笑みを返しておいた。
「いいや。これからの活動に生かせるかもしれないし、無駄じゃないさ。それにもっと小規模なものだったら間に合うかもしれないだろ」
そんなわけで、バザーというのは候補のひとつになった。ひとつの意見で決定とするわけにはいかないからだ。
ほかにも『清掃活動』とか『バスケ大会』とか、定番のものも出てくる。定番とはいえ、そして去年も同じようなことをしたとはいえ、場所が変われば内容も変わっていくだろう。次々と案がホワイトボードに並んだ。
「よし、じゃ、今日はこのへんで。鈴木先生に相談してみるよ」
まずは顧問の鈴木教諭にどんなことなら許可が出るのか相談しなければならない。ふさわしくない、許可が出せないなど却下されることもあるだろう。
それで今日の部活はおしまいになった。部員たちは荷物を持って早々に帰る者、なにか雑談をして残る姿勢を見せる者もいる。
瑞樹は今日、ノートに書記をしていた生徒、二年女子の志摩(しま)の元へ行った。
「まとめといてくれるか?」
声をかけると、志摩はノートから視線をあげて瑞樹を見た。こくりと頷く。
「勿論ですよ。これを鈴木先生のところへ出すんですよね」
「ああ。だからまとまってると助かるよ」
ノートには既に整然と文字が並んでいた。このノートは下書き用だ。案をとりあえず書きつけておくもの。清書用のノートも横にきちんとあった。
書記の志摩はきっちりとした性格で、書くものも見やすいし字もうまい。指名したのは去年の部長だが、瑞樹にとっては大変助かることである。
「明日にはできますよ」
「そりゃあもっと助かる。ありがとな」
瑞樹がお礼を言うと、志摩はちょっと恥ずかしそうな様子を見せた。自分が褒めたからだろうか、と瑞樹は思う。
「さて、じゃあ俺も自分でまとめておくか」
流石に今日はさっさと帰るわけにはいかない。自分用のノートに案をまとめておかなければだ。
机について、持ち歩いているノートを広げる。今日の会議のことを思い返しつつ、案以外にも自分の思ったことや会議から連想したことも書きつけていく。
そんなことをしていれば下校時間はすぐだった。
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