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※第5話④
「じゃあ次は…、Lick 」
由良さんが言いながら靴下を履いた足を差し出す。
由良さんの声は変わらず低いままで怖いのに、被虐欲を煽る。今までに感じたことがない感覚だ。
彼の靴下を脱がせ、足の指に口をつける。
親指の腹に舌を這わせると、由良さんが小さく吐息を漏らした。
そのまま反応を伺ってみる。
「ひもひい…、れふか…?(気持ちいいですか?)」
こんな行為、今までプレイをしてくれた相手になら絶対したくなかった。けれど、不思議と由良さんにならいつまでもしていたいなと思うのが不思議だ。
「ああ、いいよ。このままもっと、…そう、たっぷりと咥えて。」
艶っぽい声でささやきながら、由良さんは今度は、ゆっくりと俺の口の奥に足を入れていく。
見上げた先で彼の切れ長の瞳からglareが漏れ出ているのがわかって、下腹部に熱が溜まり切なく疼いた。
苦しいけれど、息がギリギリできる程度の深さ。口の中に広がるボディーソープの香りと、由良さんの足の指がそろそろと舌を這う感覚がたまらない。
抑えられない“ぁー”、だとか“ぅー”と言う声とともに、大量の唾液が口から溢れる。
咥えられない部分に届くように、懸命に舌を伸ばすと、それに答えるように由良さんの指が大きく動き、俺の口内を蹂躙した。
すごく、気持ちいい。
しばらくその行為に没頭する。指の間の柔らかい部分まで丁寧に舌を入れて舐めとって、由良さんが甘い吐息を漏らすたび、Subとしての自分が満たされていく。
しかし、次の瞬間彼が放った言葉に一瞬思考がフリーズした。
「じゃあそのまま、もう片方の手でシャツを捲り上げてごらん。しっかりと肩まで、僕に見えるように。」
医者を前にした小学生でもあるまいし、そんな恥ずかしいことできない…
「幹斗、こっち見て。」
命令に従わない俺に、裁きのようなぞっとするほど重く低い声が降ってきて、恐る恐る由良さんを見上げる。
ごめんなさい、でも俺、できない…。
そう謝ろうとするが、由良さんが放っているglareが冷たくて、怖くて…。
泣きそうになっていると、固まっている俺の顎に由良さんの長い人差し指が当てられた。
初めて会って、本音を言わされた時と同じ。由良さんの唇が開くのが、やけにゆっくりに見えて。
「present 」
強力なglareとともに、由良さんの口からcommand が放たれた。
彼の命令は絶対。
脳が警告を鳴らした。
反射的に、由良さんの足を持っている手とは逆の手で、シャツの裾を掴む。
掴んだ手は羞恥で震えているけれど、自分の意思に反してしっかりとシャツを持ち上げ始めた。
どくん、どくん。心臓がうるさい。
下から冷たい空気が流れ込んできて、自分の身体の熱さを伝えてくる。
言われた通りに肩まで上げると、由良さんに裸の上半身を見せつける形になった。
由良さんの冷たい視線が晒された俺の肌を値踏みするようになぞる。怖いのに、恥ずかしいのに、その氷のような視線が気持ちよくておかしくなりそうだ。
「…じゃあ、今度はこっち。シャツは下ろさないようにね。」
由良さんの足が口から引き抜かれ、もう片方の足を差し出された。
俺がもう片方の足も同じように咥えると、由良さんが目の前に先ほどまで舐めていた方の足を目の前に差し出してくる。
「…見て、こんなに濡れてる。」
俺を軽蔑するように、嘲笑するように、由良さんは言うけれど、その足先からこぼれそうな雫が自分の唾液であることを考えると、ひどく気分が高揚し、身体がますます熱を帯びた。
これ以上熱くなって、溶けてしまいはしないだろうかと不安になる。でもその前に、刺すような由良さんの冷たさで凍ってしまうかもしれない。
彼の片足は、セピア色の照明に照らされて艶かしく光っている。
ふと、彼がそれを前に出し、途端に微弱な電流のような、甘い刺激が身体に走った。
「んんっ…!!」
閉じることのできない唇は開いたまま、喉の奥から自分の声とは思えない嬌声が漏れる。
見ると、先ほどまで俺が舐めていた由良さんの足の親指が俺の胸部に当てられていた。
「ゃっ… 」
焦らすかのように中心には触れず、その周りをひたりとなぞられる。
男の胸など触れられても何も感じるわけがないのに、由良さんの親指が一周するたび、脳を支配したのはまた触れてもらえなかったという絶望と、次は触れてほしいという期待。
自分の浅ましさにため息が出そうになりながら、なおも心は中心に触れられるのを待っている。
「…幹斗、say .」
俺の考えを見透かすように、由良さんは告げた。
脳に響く彼の命令に、本能が逆らえない。
「そこ、触えへ(触れて)、くあはい(ください)っ…!!」
言った途端、由良さんの指がその中心に触れた。その一点に、閃光のような強い快楽が走る。一瞬で身体がはじけてしまうほどの刺激だったのに、由良さんはそのままぐりぐりとそこを刺激してやめてくれない。
恥ずかしいと気持ちいいが交錯して、もう何がなんだか分からなくなってきた。
「ゆあはん(ゆらさん)、やぁっ… 」
全く拒絶の色を示していない声は、もはやもっとしてとねだっているようにしか聞こえない。
「本当に嫌ならセーフワードを言えばいい。」
冷めた声が告げる。
実際そうである。セーフワードを言わないのは、本心では嫌がっていないからだから。
「やぁっ…、やらっ…!!」
快楽を逃そうと声を出すのに必死で、いつのまにか自分が何を言っているのかへの理解が追いつかなくなった。
そのままさらに強く擦られ、プレイ開始時から疼いていた下腹部の中心あたりから、今度はドクンと脈打つような感覚がして、そのことに驚いて。
由良さんの足の動きが止まったと同時に、知らないうちに足とシャツの裾から完全に手を離していたことに気がついた。
「お仕置きだね。」
氷の矢みたいな由良さんの声が脳に響く。
怒っているのだとわかり、ゾクりとした。
口元はわずかに笑んでいるが、目から放たれるglareは冷たい。
恐ろしさに身体が震え、自然と身体が由良さんにむけてうなじを晒した。命令を達成できなかったことを本気で後悔しながら。
Domのglareに強く圧された時、Subは無意識にうなじや腹部などを晒して忠誠心を示す、と教科書で読んだことがある。
どうやら今の自分はその状況にあるらしい。
「ちゃんと反省しているようだから、お仕置きは軽くしようね。」
もう一度由良さんの目を見ると、そこからもうglareは放たれていなかった。けれどやはり声音は冷たくて。
「ごめんなさい…。」
自然と口から漏れ出た言葉。仕置きをしないで欲しいと言う意味ではなく、ただ主人の期待に応えられなかったことが悔しくて。
「おいで。我慢できたら許してあげるから、もう少し頑張ろう。」
ぽんぽん、と太ももを叩く仕草をした由良さんの意図がわからずただ首を傾げていると、子供みたいに脇の下に手を入れられその場に立たされた。
そのまま手を引かれ、由良さんの膝の上にうつ伏せに寝転ぶ格好にされる。
何をされるのだろうと不安に思いながらも、俺は次の指示を待った。
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