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※第7話⑧

「ぁっ… 」 ゴム越しに吐精した由良さんの屹立が自らの中から抜ける瞬間は、別れを惜しむように入り口が収縮し、それでも抜けるのを止められないと悟ると、今度は甘く切なく疼く。 しばらくその余韻から抜け出せずじっとしていると、お腹にかかった俺の精を由良さんがティッシュで拭ってくれた。 「辛くない…?」 こちらを覗き込む由良さんは、とても心配そうで。 辛くない、と言えば嘘になるかもしれない。 けれど、待ちきれない、とすら言ったのに、由良さんはこれでもかと言うほど時間をかけて丁寧に中をほぐしてくれたから、想像していたよりずっと負担は軽かったように思う。 「大丈夫です。」 「良かった。」 そのまま包み込むように抱きしめられ、由良さんがありがとうと紡ぐ。 …ありがとうだなんて、俺の言葉なのに…。 幸せでどうにかなってしまいそうな時間が、もうずっと続いている。 「幹斗君、疲れてるだろうけど、お風呂入ろうか。」 ふと由良さんに言われ、そう言えばシャワーを浴びていないことに気がついた。 しかし立ち上がろうとすると、身体にうまく力が入らずよろめいてしまう。 「一緒に入ろう。」 「えっ… 」 「その足取りじゃ危ないでしょう。ね?」 俺の返事を待たず、由良さんは俺をお姫様抱っこしてバスルームへと運んだ。 心の準備ができていないし、お風呂場みたいな明るい場所で裸を見られたら本当に恥ずかしいのに。 優しく脱衣場に下され、由良さんがVネックのTシャツを脱ぎ始めた。 そして初めて、俺は由良さんの裸体を見た。 程よく鍛えられていて、きれいに引き締まっている上半身は、胸筋、腹筋、その他もろもろの筋肉があるべき場所に程よくついている。 少し血管の浮き出た腕も、絶妙に色気があって。俺はしばし由良さんの身体に見惚れてしまった。 ふと自分の身体を思い出し、服を脱ぐのを躊躇ってしまう。 太っているわけではないのだが、殆ど鍛えていないため腹部は腹筋がつかずのっぺりとしていて、腕や脚も全体的に細い。 「脱ぐの手伝おうか?」 由良さんが心配そうにこちらを覗く。 むしろ由良さんに脱がせてもらったら余計に恥ずかしい。 …もし“Strip(脱げ)”とcommand(命令)を出してもらえたなら楽かもしれないな。 思いながら、俺はのろのろとシャツのボタンに手をかけた。もたついても意味がないと分かっているのに、どうしてこうもたついてしまうのだろう。 ちらりと由良さんの方を見ると、目が合って何故か笑われた。 「Command(命令)欲しい?」 「えっ…?」 思っていたことをずばり言い当てられ困惑する。 …やばい、口に出てた…?いやでもそんなはず… 「そういう顔してる。」 悪戯っぽく言われて、顔がかぁっと熱くなる。 そんな俺に構わず、由良さんは優しいglareを放ち、言った。 「Strip(脱いで).」 ふるり、と身体が震える。 glareの使い方は主に3種類ある。主に使われるのが、defense(ディフェンス)で他のDomを牽制する、Subを従わせる、の2つ。そして3つ目はSubにご褒美として与える、だ。 軽いglareはSubの被支配欲を満たし、褒美となる。 今由良さんが放ったものがそうだ。 由良さんのglareが俺の身体を甘く蝕んでいく。ふわふわと脳が快楽に支配されるのを感じながら、俺は全ての衣服を脱ぎ捨てる。 「Good Boy(よくできました). 」 褒められてさらに嬉しくて、舞い上がりそうな心地がする。由良さんは俺の肌をやんわりと撫で、そのまま俺の身体をくるりと洗面台の方へ向けた。 「…見て、幹斗君の身体、明るいところで見たら上質な絹みたい。綺麗だね。」 「!?」 目の前の鏡に自分の身体が映し出され、恥ずかしくて直視できない。 なのに一緒に映し出された由良さんの表情があんまりにも優しくて、なんだか本当にそう思えてきてしまった。 そして首につけられたcollar(首輪)の存在が、一層そんな思いを強くする。 …俺、由良さんのモノ(パートナー)になれたんだ。 「けふっ…!」 しばらく裸でいたからか、軽く咳が出た。 「ああごめん、入ろうね。」 慌てた様子で、由良さんが俺のcollarを取り、風呂場へと手を引く。 そうして頭から爪先まで全て、由良さんは丁寧に俺を洗った。 その後湯船に一緒に浸かって。 「ずっとこんな幸せが続いたらいいね。」 由良さんが言った。 …本当にそうだったらいいのにな。 すぎた幸せは凶器だ。失うことが怖くてたまらない。 その夜俺は、由良さんと向かい合って眠った。 由良さんが俺を抱きしめてくれて、俺はその温もりの中で眠って。 幸せという優しい海を揺蕩うような夜の中で、本気で願った。朝なんて永遠に来なければいいのにと。 けれど朝は来た。 起きた時には由良さんは、仕事に行っていていなくって、俺はその温もりをまだ覚えている身体を、布団ごと強く抱きしめた。 その熱を逃さないように、…忘れてしまわないように。

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