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第15話②

「幹斗、まだやってるの?」 実験開始から3時間。すでに実験を終えた東弥が、後ろから声をかけてくる。 今日の実験はレーザーを用いる実験で、早く終わる人と終わらない人の差が激しいと噂のものだ。 ちなみに俺と谷津のペアは後者で、未だにぐずぐずとデータを取っている。他にも終わらないペアが4組。 「うん…。精度のいいデータが取れなくて…。」 「ちょっと見せて。…あ、この番号の器具、ちょっと安定性が悪いんだ。終わったペアの使うといいよ。」 東弥はすぐに原因を指摘して、代わりの装置を指差した。 礼を述べると、このくらい大したことないよ、と彼は平然と言ってのける。 「おおっ、すっげー!!東弥天才じゃん!!」 「そんなことないよ、谷津は大げさだな。」 東弥の言う通りに装置を変えたら、ちゃんとしたデータが出て、谷津は目をキラキラさせながら“終わったー”、と伸びをした。 「じゃあ俺、結果出たって報告してくるねー!!幹斗は片付けしてて!」 「よろしく。」 パタパタと、谷津が教員に結果を見せに行く。 「ねえ、幹斗。」 俺が装置を片付けるのをさりげなく手伝ってくれながら、小声で東弥が言った。 「ん?」 「別れたの…?」 「…うん。」 「そっか。」 自分から聞いてきたくせにそっけない返事なのは、いつものこと。 「もし相手に困ったら、言ってね。俺で良ければ相手するよ。」 けれど今日は、そのあとにもうひとこと続いた。 「…ありがと。」 感謝を述べると、東弥は“どういたしまして”、と爽やかに笑む。 もちろん今はまだ由良さん以外となど考えられないし、これからもglareが効かないSubを友人に相手させるなんてこと、しないけれど。 気遣いがありがたくて、嬉しかった。 「なに!!お前ら楽しそうに話して!!俺も混ぜろ!!」 話が終わった途端に元気よく谷津が後ろからアタックしてきた。タイミングが良すぎる。実は聞いてたり… しないか。谷津だしな。 「谷津が留年しない方法を二人で話し合ってた。」 東弥がさらっと嘘をつくと、谷津がむすーっとほっぺたを膨らませる。 「俺まだ一個も単位落としてないから!!留年とかもっとしないし!!」 「ごめんごめん、嘘だよ。」 「嘘なら許す!! …あ、帰っていいって言われた!!幹斗帰ろー!!」 結局本題について突っ込むのを忘れるところが本当に谷津だ。 谷津は帰り支度を済ませていたので、俺も慌てて済ませ、東弥に別れを告げる。 「何食べたい?」 「幹斗の料理ならなんでも!!」 「なんでもいいが一番困る。」 「じゃあ天ぷら!」 「…頑張る。その代わり高いエビ買ってね。」 「やった!!」 今谷津と一緒に歩いているのは、学祭の帰りに由良さんと通った道。ここでどきどきしながら初夜への心の準備をしていた、2ヶ月前のあの日が懐かしい。 …もう、触れることすらできないのかな。 人が溢れかえる駅の中で、やっぱり谷津といてよかったと思った。 今なら線路に飛び込む人の気持ち、ちょっとわかる。 …しないけど。

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