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第15話①
冬休みが明けて初めての授業は、学生実験。
谷津とは班が同じで、同じ机に座る。東弥とは班は違うが、今日は東弥の班も同じ部屋で実験を行うはずだ。
「幹斗あけおめーおもち喉につまらせなかった!?俺はもちろんつまらせt…って、え!?そ、その髪どうしたの!?」
実験室に入ってくるなり谷津が大声で叫ぶから、ざわざわしていた室内が一瞬時が止まったように静まり返った。
すぐに元の賑やかな雰囲気に戻ったものの、こちらを気にして向けられる視線をちらほら感じる。
…まあ、別に俺はどうでもいいんだけど。
由良さんに別れを言い渡された次の日は何もする気が起きなかったが、美容室の予約を入れていたからそれだけ行った。そしてそこで髪を黒く戻したのだ。
これといった理由は特にない。
でもほら、よく考えてみれば髪の毛を銀色に保つのは面倒くさいし、別に黒く染めたことで女子たちから声をかけられやすくなったってやんわり拒否すればいいし。それに声をかけられるかもしれないとか、自意識過剰かもしれないし。
「どうもこうも、黒く戻しただけ。」
「ああ、そっか。なに、バイトでも始めるの?」
「いや、…ああ、でもそれもいいかな。」
「それもいいって、お前…
…幹斗、ちょっとトイレ付き合って。」
「1人で行こうよ、トイレくらい… 」
「大事なトイレなんだよ!!めちゃくちゃ!!」
大事なトイレってなんだ。非常に理解に苦しむワードだ。
とにかく来いよ、と言われ、まだ開始時間まで20分あるので仕方なくついていく。
谷津は俺を多目的トイレまでグイグイと引っ張り、周りに誰もいないことを確認して俺まで中に連れ込むと、鍵をかけた。
何か重い病気にでもかかって、トイレに介助が必要なのだろうか。だったらそれは確かに大事なトイレと言えるかもしれない。
「…幹斗、collarどうしたの。」
しかし谷津はなにをするそぶりもなく、静かな声で、俺にそう問いかけた。
…なるほど。心配してくれていたのか。
「見ての通り、要らないって言われちゃった。collarは切られちゃってさ。」
なるべく心配をかけないように笑って言った。…うまく笑えているといいな。
「…本当に、フラれたの?」
「うん。それはもうきっぱりと。」
あれから俺なりに考察してみたけれど、由良さんの様子が変わった理由は、結局よく分からなくて。
でも、フラれた理由は簡単だ。
…ただ俺が、彼の期待に応えられなかっただけ。
「…なんで谷津が泣くの。」
「あっ、ごめっ…。」
目の前で谷津が突然泣き始めて、困惑する。
彼が謝りながらぐしゃぐしゃとコートで涙を拭おうとしたので、ハンカチで拭いてやった。
「今日俺幹斗の家泊まりにいくから!!あ、もちろん寝るのは床の上で寝るし!!」
「…気、遣わなくていいよ。俺は大丈夫。」
「俺が幹斗のご飯食べたいだけ!!ちなみに実験レポートも一緒にやって!!」
…目的はそっちか。なら、都合がいい。
もうずっと、趣味だった料理すら、自分のためだけに作るとなると手がつかなくて、ご飯と味のない野菜とプロテインを流し込む日が続いている。
でも一緒に谷津が食べてくれるなら、ちょっと頑張って作ろうかなって思った。
レポートだって実験班が同じなら助け合えるし。
「わかった。じゃあ、材料は割り勘ね。」
「いや材料費くらい払うし!!やった!幹斗のご飯!!」
そんなこんなで、授業開始五分前に実験室に戻った。
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