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第17話①
「あらー東弥ちゃんいらっしゃい。幹斗ちゃんもお久しぶりね。」
ママは驚いたように俺をじっと見て、何故だか一瞬固まったあと、東弥の方に視線を向けた。
約束した日、東弥に連れられてきたのは由良さんと出会う前俺がプレイ相手を探していたクラブだった。
しかしママと話している様子を見ると、二階にあるクラブではなく、彼は一階のBARに用があるように感じる。
「うん。ここ座っていい?」
「勿論よ。」
東弥がカウンター席に座り、俺も東弥の隣に座るよう勧められた。
ここのBARに来たのは初めてで勝手がわからない俺に気を遣ってか、東弥が俺の分の注文まで済ませてくれた。
…しかし、どうして俺を付き合わせたのだろう。
だって、飲み物が来る前も、来た後も、東弥は黙ったまま何も話さないのだ。
「…ねえ幹斗ちゃん、聞いていいかしら。」
俺が耐えかねて東弥に何がしたいのかを尋ねようとしたタイミングで、ママが気まずそうに俺に切り出した。
「何ですか?」
俺が黙って頷くと、彼は数秒考えるようなそぶりを見せてから、口を開く。
「…由良と別れたって、本当?」
…ああ、そのことか。由良さんから話を聞いたのだろうか。幼馴染って言っていたけれど、今でも仲がいいんだな。
「…ええ。フラれちゃいました。それはもうバッサリと。」
嘘をつく必要も無いので、はっきりと答えると、ママはぽかんと口を開ける。
「ね?言った通りでしょ。」
ママが答える前に、つい先ほどまで黙っていた東弥が意味ありげにママに問いかけた。
「…確かに、そうね。おかしいわ。」
何がおかしいというのか。二人が何も言わずとも通じ合っているのに、俺だけ置いてきぼりなのは辛い。
「どういうことですか?」
おかしいわねえと考えるように人差し指を頬に当てているママに、俺は説明を求める。
「あのね、幹斗ちゃん、…気に障ったらごめんなさい。でも、由良からフッたって、確かかしら?」
恐る恐ると言った調子で切り出したママの言葉は、気を遣ってくれているのだろうか、それとも何かの根拠があってどこかに矛盾を感じているのだろうか。
どちらにしろ俺は、別に勘違いしがちな曖昧な言葉を持ってフラれたと言っているわけでは無い。
できるものなら俺だって勘違いだと思いたかった。
…けれど。
「確かです。だって、あの日由良さんは、プレイ中に俺を”要らない”、と言った上で、俺のcollarをハサミで切ったんです。」
「「えっ…!?」」
東弥とママの驚きの声が重なり、カウンター席から離れた席に座っていた二組の客の視線が、こちらに集中した。
「…っと、ごめんなさい。あまりにも驚いちゃって。
…確かにそれは由良から手放したとしか言えないわね。」
ママが口に手を当て、俺だけに聞こえるように謝罪を述べる。
「…でも、それだとママが言っていた話と矛盾しない?」
続いて、今度は東弥がママにそう尋ねた。
「そうなのよねえ…。」
…一体、二人が悩んでいるのはどういうことなのだろうか。そろそろ俺にもわかるように説明してほしい。
「ねえ東弥、ちゃんと俺にもわかるように説明してくれる?」
「…ああ、そうだね。そうしたいけど、その前に一つ聞いていい?」
「…?話、逸らさないならいいよ。」
「プレイ中に幹斗を要らないって言ったうえにcollarを真っ二つにした男のこと、幹斗はまだ好きなの?」
なぜだか東弥の表情はムッとしている。
…でも、そんなの関係ない。
「もちろん。」
きっぱりと言うと、ママと東弥はなぜか盛大に顔をしかめた。
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