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第18話②
「それは確かに、その仮説で間違い無いだろうね。」
「…なんたる低確率事象…。びっくりして寝れなくなっちゃうやつだ…。」
昨夜のことについて全てを話しても、案外2人の反応は普通だった。
「どうしたの幹斗、驚いた顔して。」
首を傾げながら東弥が尋ねてくる。
「…二人が全然驚かないから….。」
「「だって幹斗はまだ好きなんでしょ?(だろ?)」」
2人がぴったりハモって答えてくれたことでさらに驚きながらも、胸がじんわりと温かくなった。友達ってすごい。
…俺、こんなに優しくしてもらっていいのかな。
「…うん。」
頷くと、2人は顔を見合わせて、仕方ないなあ、というように笑ってくれた。
由良さんが自分の父親だろうとわかったあとは、倫理的な問題とかも考えてすごく動揺したけれど、結局彼のことを好きだと思う気持ちが変わることはなかった。
それ以前にまず、正直祖父母に育てられた俺は、父親という存在の概念があまり形成されていないらしく、通常であれば持ち得る抵抗感が全くといっていいほどに無くて。
「それで幹斗は、これからどうするつもりなの?」
「えっ…?」
東弥の質問の意図がわからず戸惑う。
「新しい相手、見つけに行くの?」
…ああ、そういうことか。
「行かない。由良さんと会う前みたいに、クラブでたまにプレイ相手を探そうかなって。
…きっとずっと好きだから。」
ごめんね、東弥。東弥に迷惑はかけないから、このまま由良さんを好きでいる俺を許して。
「じゃあその人ともう一回話に行きなよ。」
呆れ口調で東弥が言う。
「…え、いや、だって俺、もう要らないって言われて… 」
「由良さんってさ、幹斗以外にパートナーがいたことなかったらしいよ。まあ、SランクのDomによくあることだけどね。
誰でもいいわけじゃ無いんだ。妥協して誰かとパートナーを組むこともできるけど、あの人は幹斗のこと、本当に大切に思ってる風だった。
SランクのDomが、自分から支配したいと望んだ相手を簡単に手放すことなんて絶対ない。…もしするとすればそれは…。
…まあとにかく、もう一回話し合いなよ。あの人時々あそこのBARに行ってるらしいし。幹斗だってあんな別れ方のままじゃ嫌でしょう?せめて気持ちの整理がつくように、一回冷静に話し合っておいでよ。」
どうして東弥がここまで由良さんのことについて詳しいのかは置いておいて、凄まじい暴論だ、と思った。
俺にDomの気持ちはわからないけれど、東弥の助言は、まだ由良さんが俺を必要としていると言う仮説のもとに成り立っている。
そんなことがあり得るのか。正直なところ信じることができない。
「…俺は由良さんにとってトラウマで、会ったら由良さんのこと、傷つけちゃうから… 」
なんとなく東弥から目をそらしそう答えると、今度は谷津が頬を膨らませた。
「じゃあ幹斗がその分傷つくの??
由良さんは幹斗のことを必要としているかもしれなくて、幹斗は由良さんのことまだ好きで、それなのに話し合うことすらしないで、このまま一生幹斗は傷ついて生きるの?そんなのダメだ!!
…じゃないと東弥だって… 」
「谷津。」
谷津が何か言いかけたのを東弥が止める。
東弥はひどく苦しそうな表情を浮かべていて。
その様子を見て思った。
きっと東弥も谷津も優しいから、俺が何度心配するなといったって、俺を心配してくれるのだろう。
それに。
東弥が言っていた、”由良さんの初めてのパートナーが俺だ”という言葉が事実なら、由良さんは由良さんに出会う前の俺と同じで、ずっとどこかで満たされない何かを感じていたのかもしれない。
その苦痛も、離れてなお相手を求め続けてしまう執着心も、俺は知っている。
…もう一度、ちゃんと話し合おうと思った。もし由良さんにとって俺の存在がトラウマでも、彼がまだ俺を必要としている可能性があるのならば。
由良さんを変わらず愛していると、必要としていると、俺は由良さんと離れたくないと、想いを全部伝えて、それでもダメならそれでいい。
何も言わないで諦めるくらいなら、せめて答えくらい一緒に見つけたい。
だって決めたじゃないか。由良さんに命を預けた日に、この関係が続く努力をたくさんするって。
「二人ともごめん。ちゃんと話すよ。東弥、咲さん(バーのママ)の連絡先知ってる?由良さんが次きたら、引き止めてもらうように頼みたくて。」
「うん、いいよ。」
「もーしょーがないなー幹斗は!!まあもしダメだったら東弥と付き合っちゃっ、んんむーっ!!」
「ねえ谷津、その口glareで話せなくしていい?」
東弥が手のひらで谷津の口を塞ぎながら、爽やか笑顔で毒を吐いた。
「ひえっ!!」
「あははっ、もう、二人とも…っ!!」
谷津の表情があまりにも絶望をはっきりと表していて、また俺は笑ってしまった。
すごい決断をしたにも関わらず、二人がいるから、変わらず心は温かい。
俺はいつかこの二人に同じことをできるかな。
…できるといいな。できればその時まで、
…いや、それからもずっと、二人とは仲良くしていたい。
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