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第20話
「…で、結局またつきあうことにしたんだ?」
相変わらず興味なさそうなそっけない口調で東弥が聞いてくる。
「うん。東弥のおかげ。ありがとう。」
「よかったねー幹斗!!夜はきっと大盛り上がっ…もごもご。」
なんとなくこれからなにを言われるのか予想がついたので谷津の口を掌で塞ぐと、彼はむすっとしながらも口を閉じた。
一昨日由良さんとまた付き合えることになったものの、完全に浮かれてはいられない。
あと2週間でどっと専門科目の期末試験が押し寄せるのだ。
というわけで、今日は東弥と谷津と俺の家で勉強会をしている。
少しずつ試験勉強は進めていたが、やはり2週間前ともなると油断してはいられない。
「…ねえ、球面座標のラプラシアンって本当に求められなきゃダメ…?」
ルーズリーフにシャーペンを走らせながら、谷津が悲鳴を上げている。
「ほかで点数取る自信があるならいいと思うけど…毎年大体出てるから求められた方がいいよ。ただの計算だし。」
東弥はさらっと言ってのけたが、この計算が面倒くさいという考えは彼の中にはないらしい。
「ぅー…幹斗、助けて…出ない… 」
「えっと…、あ、ここ違う。あとここも。でも、ガチで計算しなくても答え覚えておいてその答えが出なかったらもう一回計算しなおせばいいでしょう…。」
「確かに!!天才…?」
「少なくとも天才ではないかな…。」
物理や数学系の試験はほぼ条件に合わせて適切な公式を使い計算する、というものだが、大抵まず試験は計算がえぐい。
ちなみに化学についても、エンタルピーだのエントロピーだの初めましてのパラメーターが大量に出てきて、それを計算させられたりするからちょっと偉人が憎くなったりする。
…もちろん基礎は大切なわけで、一生懸命覚えるのだけれども。
まあ、1人で全てを網羅するのは不可能である。
とりあえずはそれぞれ別の教科書の問題を解いて、後で解き方を共有することにした。
“〜♪”
問題を解き始めてから3時間。そろそろ眠くなってきてコーヒーでも淹れようかと考えはじめたとき、突然LINEの通知音が鳴った。
実験レポート関連だと思い、すぐにスマホを開く。
…あれ、由良さんからだ。
まず由良さんからLINEが来たことによろこんで、そのあと内容を読んで、一気に目が覚めた。
“週末一緒にcollarを買いに行かない?”
“行きます”
即座にそう返す。
テスト期間にいいのか、と少し考えたが、多分その日のために1日何倍も頑張れる。
「うわー、なに幹斗幸せそう!!俺にもわけて!!」
隣でうつらうつらしていた谷津が、いきなり覚醒して声を上げた。何かを感知するセンサーでも付いているのだろうか。
「谷津は彼女さんに愛してもらってね。…あ、とりあえずこの章は解けた。」
「俺もこの章は解決したよ。」
「…え!!ちょっと2人とも早い!!俺まだ半分しか解けてないしなんなら詰まってて進まないんだけど…東弥助けて… 」
「見せて。…あ、この章だいぶ難しいかも… 」
谷津は涙目で、東弥は眉間にシワを寄せ、2人とも問題を見て固まっている。
一旦息抜きする必要がありそうだ。俺も疲れたし。
「2人とも、もう1時だし昼食にしない?何か作るよ。」
「やったー!!待ってた!!」
手伝うよ、という東弥の申し出を断って、冷蔵庫を一瞥する。
…焼うどんとかでいいかな。
ふとスマホを確認すると、由良さんからLINEが返ってきていた。
“じゃあ土曜日、11時に◯◯集合ね。”
よろしくお願いします、というスタンプを返して、スマホを置く。
そういえば、まだパートナーシップについては話してなかったな。
collarを一緒に買いに行くということは、またパートナーにしてもらえるということだろう。
…本当によかった。これでまた隣にいられる。
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