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エピローグ
「「「かんぱーいっ!!!」」」
カン、と清々しいグラスのぶつかる音が個室に響く。
20◯◯年3月、俺と東弥と谷津は、無事大学を卒業した。
とはいえ、俺と東弥は大学院に進学するから実際に卒業するのは谷津だけだけれど。
今日は由良さんと俺と谷津と谷津の彼女、そして東弥とそのパートナーの6人で卒業祝いの飲み会をしている。
「2人とも院でも研究頑張ってね!!あと、俺就職しちゃうけど時々構ってくれなかったら泣くからね!!毎日LINEして!!」
まだ一口も飲まないうちに谷津は涙目になっていて、それを見た谷津の彼女が隣で苦笑いをした。
「明楽 (谷津の下の名前)、時々なのに毎日って矛盾してるからね。」
「まきちゃん厳しいー。」
むすーっと膨れた谷津のほっぺたをやれやれという感じで彼女が押し潰す。
「明楽が社会人とか先が思いやられるわぁー。私に永久就職すればいいのに…。」
「それじゃあヒモじゃん!!」
「子育てと家事はしてよ。」
「まきちゃん俺のこと大好きじゃんーもー。」
谷津の彼女さんはクール系美人のしっかり者と言った印象で、2人はとてもお似合いだ。
…ちょっとイチャイチャされすぎて反応に困るのは置いといて。
「お料理のご注文を伺いにまいりました。」
少し(谷津たち以外が)気まずくなってきたところで、タイミングよく障子が開き、店員さんが注文をとりにきてくれた。
「静留、食べたいものある?」
「んー… 」
「じゃあ、とりあえずこれとこれで。好きでしょう?」
「うん。ありがとう、東弥さん。」
東弥に向けて、彼のパートナーがふにゃり、と優しく笑いかける。
東弥のパートナーは、俺たちより2つ年下で、ピアニストをしているという。界隈ではかなり有名らしい。
色々あったが、東弥にも素敵な相手 が見つかってよかったと思う。
そして、俺と由良さんは。
「幹斗君、なに食べる?」
由良さんが自然と、俺と一緒に見ることができるようにメニューを広げてくれる。
「これとこれで。」
「じゃあ僕はこっちにしようかな。」
「俺もそれ食べたい。」
「ちょっと交換しようか。」
きらり、と由良さんの左手の薬指にお揃いの指輪が輝くのが見えて、俺は嬉しくてぎゅっと目を細めた。
「そういえば2人、院からは同棲するんでしょう?物件決まったの?」
店員さんが行った後、まきさん(谷津の彼女)が俺たちに向けて聞いてきた。
「…ああ、実はまだ…。」
「じゃあ明日物件探し付き合うよー。」
ちなみに彼女は不動産屋で働いているらしい。
「助かります。…よかったですね、由良さん。」
「そうだね。僕からもよろしくお願いします。」
由良さんと2人で頭を下げると、まきさんはいいのいいの、と笑ってくれた。
「任せて!イケメン2人の物件選びとか、幸せだわー。張り切っちゃう!」
「ちょっとまきちゃん!!浮気ダメ!!絶対!!」
「2人は観賞用ー♪付き合うなら明楽みたいな可愛い子がいいー。」
「…むっ、ちょっと嬉しくない… 」
なかなか頼もしい彼女さんである。
「そういえば、東弥はもう同棲してるんだよね?」
「うん。俺がいないと静留、ご飯すら食べてくれないから。もうちょっと自発的になってくれてもいいんだけど… 」
東弥がそう答えると、静留がしゅん、と肩を窄めた。
「…ごめん… 」
「あー、責めてないよ。泣かないで。」
東弥がよしよしと静留を宥める。
東弥の瞳はとても愛おしげで、その光景があまりにも微笑ましかったので、俺は思わず由良さんと目を見合わせてくすりと笑ってしまった。
そんなこんなで、俺は幸せな大学生活を送っている。
第二性的にも恋愛的にも惹かれる俺にはもったいないくらい素敵なパートナーと、優しい友人に囲まれて。
ゲイだから、glareが効きにくいからと言って色々なことを諦めていた過去の俺に、教えてあげたい。
怯えないで、周りに目を向ければ、世界は案外明るいものだって。
ほら、こんなふうに。
〜Fine〜
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