5 / 6
Ash.
彼女を泣かせたその夜、宇宙から灰が降った。
先生は震える手で、ハンドリムを握りなおした。
その確かな炎で、この降り注ぐ灰を止めようとする──
It is because innocent she thought that she was sad that you hated snow.
Therefore, you hoped it stopped snowing.
私の傲慢な悲しみと、先生の深い悲しみが、起点を誤らせた。
だから、この灰を止めるには。このエラーを直すには。
──You will be going to jump down from here.
ああ、エラーログが止まらない。どうあれば、この警告音は止まる?
「先生、あなたが」
降り注ぐエラーメッセージにまぎれるのが怖かった。許せなかった。いたたまれなかった。
My prof.,I'm here. もうどうしようもない、どうすることもできない。
「先生、私にとってあなたは、最後のオペレーティングシステムだ。あなたが私の世界だ。もう変えられない。他のシステムに移行なんてできるはずがない!」
だから。
私は手を伸ばした。車椅子のグリップを、爪が突き刺さるほどに強く掴む。車椅子は、わずかに斜めに傾いて停止した。
沈黙。静寂。
灰色に埋め尽くされる中で、私と先生の呼吸だけがした。
Snow will turn into heavy snow.
先生は荒い吐息を漏らして、手で顔を覆った。
私は車椅子にすがりつくように、膝を折った。
「この灰は、まだ止みません。……どんな方法でも、止ませることなんて無理だ。……そうでしょう、先生。あのラジオでも言っていた。しばらく灰は降る──」
先生は何も言わなかった。私は喘ぐように、ただ続ける。
「でもいずれ灰は止む。きっと止むんです。……止んでほしい……、そうでなければ……」
その先を遮るように、先生がかすれた声で言う。
「……起点を間違ったのは私だ。私などを世界にしたから、君が方向を見失った。だから、灰が降った」
君はどこも悪くない、と暗い言葉が続いた。
私はうつむいて下唇を噛み、ハンドリムを握る先生の左手を握り締めた。息苦しさと浅ましい傲慢さを、噛み締めた唇の合間から吐き出して、先生の年取った手を強く掴み取る。
「それでも、あなたは、私の、世界だ」
このコードは、端的に言えばI love you。そして、即物的なI need you。
この合理化を果たした世界の、唯一の欠陥。
私は、何よりも、あなたを選んでしまう。
先生は、私の愚かな手を強く握り返した。憤りさえ感じるような、激しい深愛で。
ともだちにシェアしよう!