4 / 6

Ash.

 ちらちらと舞う灰が、灰色の湖面にいくつかたどり着いたころ、先生は私を振り返らずに、うつむいた。 「あの娘のどこがだめだったのかね」 「どこもいけなくはありませんでした」 「時期がだめだったのだろうか」 「時期は遅くも早くもありませんでした」 「めぐり合わせがだめだったのだろうか」 「いいえ、そうでもありません」  会話は途切れた。  しばらく灰が降って、先生は空を見た。 「私がいたからだめだったのだろうか」  沈黙した。  先生は湖面に視線を注ぎ、そっと横目で私を見た。 「灰がひどくなってきた。君はもう帰りなさい」  確かに、先生の言うとおり、降り注ぐ灰はひどくなってきていた。先生の白髪交じりの髪にも、車椅子のハンドルにも、灰がうっすらと積もり始めている。  私は、車椅子から、手を離した。  先生は、ストッパーを外した。痩せた手で、ハンドリムをしっかりと握る。 「先生」  私はたまらず、声をかけた。  これは、私が今まで先生を呼んだどのときよりも、決定的で完全な、そしてすべてが台無しになるバグだった。  先生は、ハンドリムを握ったまま、前かがみになって頭を振った。 「それはいけない。どうしても、いけない。何故だ。何故こんな結果になった。君は、何を起点にしたのだね。一体、どこを基準にした……」  搾り出すような声が、降り注ぐ灰にまぎれて聞こえる。声は、灰に凍えて次第に小さくなる。 「……どうして、私は起点を間違えたのか……」  先生は車椅子の上でうずくまった。  私は、灰に目を細めながら、ただ、先生を見ていた。

ともだちにシェアしよう!