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Ash.
ちらちらと舞う灰が、灰色の湖面にいくつかたどり着いたころ、先生は私を振り返らずに、うつむいた。
「あの娘のどこがだめだったのかね」
「どこもいけなくはありませんでした」
「時期がだめだったのだろうか」
「時期は遅くも早くもありませんでした」
「めぐり合わせがだめだったのだろうか」
「いいえ、そうでもありません」
会話は途切れた。
しばらく灰が降って、先生は空を見た。
「私がいたからだめだったのだろうか」
沈黙した。
先生は湖面に視線を注ぎ、そっと横目で私を見た。
「灰がひどくなってきた。君はもう帰りなさい」
確かに、先生の言うとおり、降り注ぐ灰はひどくなってきていた。先生の白髪交じりの髪にも、車椅子のハンドルにも、灰がうっすらと積もり始めている。
私は、車椅子から、手を離した。
先生は、ストッパーを外した。痩せた手で、ハンドリムをしっかりと握る。
「先生」
私はたまらず、声をかけた。
これは、私が今まで先生を呼んだどのときよりも、決定的で完全な、そしてすべてが台無しになるバグだった。
先生は、ハンドリムを握ったまま、前かがみになって頭を振った。
「それはいけない。どうしても、いけない。何故だ。何故こんな結果になった。君は、何を起点にしたのだね。一体、どこを基準にした……」
搾り出すような声が、降り注ぐ灰にまぎれて聞こえる。声は、灰に凍えて次第に小さくなる。
「……どうして、私は起点を間違えたのか……」
先生は車椅子の上でうずくまった。
私は、灰に目を細めながら、ただ、先生を見ていた。
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