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第11話リーちゃんの誕生日旅行⑤

リオールは目覚まし時計の喧しい音と馬鹿の鼾で目が覚めた。身体が重怠いし、腰がじわじわ痛い。明らかに、はっちゃけ過ぎた。 気持ちよさそうに寝ている馬鹿の顔を間近で観察する。安定の平和感丸だしの馬鹿面である。少し髭が伸びている。 昨夜、セックスの真っ最中に、馬鹿から誕生日の祝いの言葉をもらった。快感で蕩けきったまま、ベッドのヘッドボードの上にあった目覚まし時計を見れば、日付が変わり、リオールの誕生日になっていた。『誕生日おめでとう、リーちゃん。もっと気持ちよくなろうね』と言った馬鹿に、その後、アナルに双頭バイブを突っ込まれて、馬鹿のひくひくしている熱いアナルにペニスを咥え込まれ、乳首をしつこいくらい舌と指で弄られまくって、リオールは過ぎた快感に本気泣きしながら、よがって喘いだ。やり過ぎだ馬鹿。お陰で喉も少し痛い。 馬鹿と戯れまくったベッドは大判のタオルを敷いていたのに色んな液体でぐちゃぐちゃだったので、空いていたキレイなベッドに2人揃って倒れ込んで、いつものようにくっついて眠った。まだ少し寝足りないが、今日は近くの森を散策する予定である。 リオールは馬鹿の鼻を掴んで、むにーっと引っ張った。 「ふがっ」 「起きろ。馬鹿」 「んーーーー。……おはよう、リーちゃん。誕生日おめでとー」 「……もう聞いた」 「何度言ってもいいじゃない。リーちゃんが生まれてきてくれた日だもの」 まだ寝ぼけ眼な馬鹿が、ふにゃっと笑った。なんともむず痒い。リオールはにやけないように、ぐっと眉間と口に力を入れた。馬鹿がリオールの唇に触れるだけのキスをして、起き上がった。リオールも起き上がると、馬鹿に手を握られる。 「念の為に目覚まし時計をセットしといてよかったね。お風呂に入っても朝ご飯まで少し余裕があるよ」 「ん」 「お風呂はーいろ」 「ん」 馬鹿に手を引かれてベッドから下り、内風呂へと向かう。馬鹿と髪や背中を洗いっこしてから、疲れが残る身体を温泉で温めた。 服を着て宿の食堂へ行けば、すぐに美味しそうな朝食が運ばれてきた。嬉しそうに、ふにゃふにゃの笑みを浮かべている馬鹿につられて、リオールも小さく口角を上げた。馬鹿と一緒に、美味しい朝食を腹一杯におさめる。何気なく窓の外を見れば、今日もよく晴れている。散策日和だ。 リオールは楽しい予感にワクワクする胸を、そっと撫でた。 ------ 馬鹿と手を繋ぎ、整備されている森の中の小道を歩いている。森の中は意外な程涼しく、木々を通り抜ける風が気持ちいい。嗅ぎ慣れない森の濃密な緑の匂いが新鮮で楽しい。 馬鹿とポツポツ話していたが、ふと会話が途切れた。沈黙が降りるが、気まずくはない。ゆるやかな空気が2人を包み込んでおり、なんだか気分が安らぐ。繋いだ手が温かい。お互い滲んだ汗でしっとりしているが、まるで不快ではない。 横目にチラッと馬鹿を見下ろせば、馬鹿も同じタイミングでリオールを見上げてきた。ふっと穏やかな顔で笑う馬鹿に、思わず顔が弛んだ。この時間が永遠に続けばいいのに。今だけは世界にリオールと馬鹿の2人だけしか存在しない。馬鹿はリオールだけのものだ。胸の奥から湧き出た思いが、じわじわと脳ミソに浸透していく。 馬鹿とずっと一緒にいられたらいいのに。馬鹿は社交的で人に好かれる性質だから、今までに見合いの話がなかった訳じゃない。毎回断っていたが、馬鹿だっていつかはリオールから離れて結婚するだろう。誰かに恋をするかもしれない。大事な幼馴染みで親友だから、その時は馬鹿を応援しなくてはいけないのに、応援なんかしたくない自分がいる。自分の独占欲と醜さに嫌になる。面倒くさい性格をしていると自覚しているリオールの側に今もいてくれているだけで奇跡なのに、その奇跡がずっと続けばいいと思ってしまう。 リオールはなんだか心に隙間風が吹いた気がして、馬鹿と繋いだ手に縋るように少しだけ力を入れた。馬鹿が同じくらいの力で握り返してくれる。 馬鹿は優し過ぎる。だからリオールはいつまで経っても馬鹿の隣から離れられない。リオールを包み込んてくれる馬鹿の優しさが嬉しい反面、少しだけ憎い。 歩きながら、少しだけ思考の海を漂っていると、馬鹿がリオールの名前を呼んだ。 「リーちゃん。喫茶店が見えてきたよ。なんだか可愛い建物だね」 「……ん」 馬鹿が楽しそうに微笑みながら、少し先に見える木造の建物を指さした。確かに素朴な感じがして、森の中にあることも相俟って、まるで絵本の世界に紛れ込んだみたいだ。 馬鹿と手を繋いだまま喫茶店に入る。口髭を生やした中年の男に案内され、テーブルについた。 馬鹿がオススメを聞くと、愛想よく中年の男がメニュー表を見せながら解説してくれた。 「リーちゃん。違うの頼んで分けっこしようよ」 「……ん」 「僕、オムライスにしてみるね。茸のクリームソースがかかってるなんて、お洒落だねぇ。すっごい美味しそー」 「……鶏肉のトマト煮込み」 「わぁ!いいね!それも美味しそうで気になってたんだぁ」 馬鹿は鶏肉が好きだから、多分そうだと思った。馬鹿の嬉しそうな笑みに、少しだけむず痒くなる。 注文を頼み、サービスで出された水を飲む。森の中は涼しいが、それでもやはり汗をかいている。氷の浮かんだ冷たい水が素直にありがたい。馬鹿とメニュー表に載っているデザートの話をしながら、料理が運ばれてくるのを待つ。デザートも2人で違うものを頼んで、分けっこすることになった。楽しそうな馬鹿の顔を見ているだけで、リオールも楽しい。眉間と口元にぐっと力を入れないと、だらしなく顔が弛んでしまいそうだ。 運ばれてきた美味しい料理を2人で分けっこして食べ、デザートまでしっかり楽しんだ。 旅行とはなんて素晴らしいものなのだろうか。馬鹿とずっと一緒で、楽しい気分ばかりが続いていく。旅行を計画して、リオールの誕生日を祝ってくれる馬鹿の気持ちが何よりも嬉しい。リオールの隣で笑ってくれる馬鹿に、簡単に名前をつけられない気持ちが溢れてくる。 楽しい昼食後も森の散策を楽しみ、夕方に宿に戻った。昨日とは違うメニューの美味しい夕食を2人で楽しんで、一緒に風呂に入り、今夜も2人で絡み合って熱を分け合う。 リオールに一生忘れられない大切な思い出ができた。

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