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柳は緑 花は紅 9

雪は猛の首にしがみついて、猛に全てを任せていた。 猛は雪が一切抵抗しないので、そのまま突き進んでいいのか考えながら、それでも雪の綺麗な肌に圧倒的な可愛さに、欲望が止められなくなっていた。 噛み付いた跡が残る雪の白い肌を、舌で舐める。ビクッと、雪の体が震える。猛は雪の下着ごとスウェットを脱がそうとした瞬間。 「ま・・・待って!!」 雪が猛の腕を掴んで、瞳の縁(ふち)にうっすらを涙を浮かべて、本気で嫌がった。雪が嫌がることはできない猛は、素直に手を止めると、雪を正面から見つめた。 雪は真っ赤な顔のまま、口唇を震わせて、泣きそうな顔になって叫んだ。 「ごめん・・・今日は・・・無理!!」 「雪・・・そうだよな・・ごめん焦りすぎた」 「ごめんなさい・・・こんなこと初めてだから・・・もうちょっと待って・・・」 顔を覆ってしまった雪を猛はそっと離す。両想いだったことが嬉しくて、つい急ぎすぎてしまった。そりゃ男同士でそういうことするのは、初めてなんだからもっと慎重にならなきゃいけなかった。 一人反省する猛に、雪は白い細い手で顔を覆ったまま、猛に謝り続けた。 「ごめん、ごめんね・・・こんなキスとか・・・そういうこと初めてで慣れてなくて・・・ごめん・・・」 「・・・え?初めて?え?」 「え?」 想定外の言葉に猛が狼狽(うろたえ)る。それに雪が反応して顔を上げた。 猛は雪の漆黒の瞳を見ながら、そっと・・・頬を撫ぜた。 「キスしたの初めてなのか?」 「え・・・だって・・・ずっと猛が好きだったから・・・」 「オレ以外は嫌だってこと?」 猛の言葉に雪がびっくりしたように声を上げた。 「そりゃ・・・そうだよ!好きな人としか・・・そういうのしたくないから・・・」 またまた雪が顔を真っ赤にして、恥ずかしくて俯(うつむ)いた。 猛は雪の言葉と反応に、自分の言動をものすごく反省した。 猛は雪を忘れようと女と付き合ってそういうこともしてきたけど、雪は自分以外は嫌だからしなかったと言う。言われてみれば雪が彼女を作った記憶がない。 当然、キスもその先もしたことがない。猛以外は嫌だから、しなかった。そんな純潔を守っていた雪に、自分は乱暴にキスして、そのままセックスしようとしてしまっていた。 ダメだ。 今日はダメだ。 こんな勢いで最後までしていい訳ない。 ちゃんと日を改めて、それなりのシチュエーションも用意してあげないと、ダメだ。 猛は雪を解放して、体を離すと、 「ごめん。乱暴にして・・・すまない。もうしない」 と、心の底から謝罪した。頭を下げて謝る猛に、雪はびっくりして頭をブンブンと振る。 「ちが・・・謝んないでよ。ちょっとびっくりしただけで、嫌だったわけじゃないから!」 「すまない、雪の気持ち考えてなかった」 「嫌じゃないってば!ただびっくりしただけで・・・ただ・・・今日は色々混乱してて」 猛は恐る恐る顔をあげる。雪は猛に一生懸命言葉を紡(つむ)いで想いを伝えようと必死になっている。 「色んなことがいっぺんに起きて・・・ちょっと心の整理がついてなくて・・・だから・・・」 「ああ、わかってる」 「だから嫌じゃないから・・・つ、続きは今度でいい?」 消え入りそうな小さい声で雪はそう言うと、猛のセーターの裾を掴んだ。 あああ・・・・もう・・・こういう可愛いことするから、誰かにとられるんじゃないかって不安になるし、早くオレのものにしたくなるし、暴走しそうになるんじゃないか! 猛は自分の中で暴れる欲望を押さえつけて、雪の頭をポンポンと軽く撫ぜた。 「わかった。待ってる」 「うん・・・ありがとう・・・」 「明日、一緒に実家帰ろうな」 「・・・うん!」 猛の言葉に顔を上げた雪が、花が開くようにぱあっと満面の笑顔を見せた。 その笑顔も可愛くて、可愛くて。 やっと雪を『恋人』にすることができた。この幸せは絶対に離したくない。 猛は、そっと・・・雪の額に口吻けた。 雪は、猛の熱い口唇に、瞳を閉じた。 Fin

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