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18.ポップサーカス 【9】
「おっしゃあ─っ!! スッキリしたぜえ!!」
「…峰木……」
バタりと倒れ伏した京灯の後ろで、一仕事終えたかの様に清々しい表情を浮かべているのは、何故か教材である世界地図を持っていた峰木だった。
なにをしてくれたんだと思いつつ、この状況に一体何処から手をつけていけばいいのかと、思考がフリーズしてしまいそうだ。
「オイコラ、なにいつまで死んだフリ気取ってんだテメエは」
「…ってえ」
事情など何一つとして知るはずもない峰木は、丸まれ長い棒と化していた地図でツンツンと京灯の身体をつつきながら、暢気な言葉を掛けていく。
今更すべてを説明したところで、何もかもやり終えた後だ、覆る状況が一つとして見えない。
「…にすんだよォ」
やがて後頭部をさすりながら起き上がっていく京灯、唯一覚えていた自分の事まで忘れていたら、それこそ気が遠くなりそうだ。
半ばただの傍観者となってしまっていた中で、フラりと立ち上がった京灯は一瞬の間を開ける。
「ひでえよ峰く──んッ!!!!」
「うっせ!! テメあの後どんだけ俺がなァ!!」
「たんこぶ出来てたらどうすんだよ!! あああ!! おまっ!!それで殴ったのか俺を!!!」
「ああそうだ、渾身の力を込めてな」
「ひっでえ!! ひでえ!!! これ以上俺のアタマが良くなったらどうしてくれんだよ!!」
「いい事じゃねえか」
「なんだよチクショオ!! 俺ぁ怒った!! お前のその乳揉んでやらァ!!」
「なにをどうしてソコに行き着くのかが分かんねえ!!」
目の前で繰り広げられる、いつもと変わらない光景。
「………」
呆気にとられるのも、無理はないと思う。
誰の事も分からなかったはずの京灯が、普段通りに峰木の名を呼んで。
あの振る舞いも、今となってはすっかり見慣れていたもので。
「…感謝するべきなんだろうか」
同じ部分に、同様の衝撃を与える。
偶然にもそれを成した峰木、お陰で呆れる程の回復を見せた京灯。
「…とは言え、なんだかスッキリしないな」
なんだろう、この締まりのなさは。
「おっ!! 批土岐~!! たっだいま~!!」
暫くは二人のやり取りを眺めていて、俺の存在に気付いた京灯が笑顔を浮かべながら目の前へと戻ってくる。
「……」
「ん? どした?」
まるで京灯が二人、居たみたいだ。
「いや、…おかえり」
「イエ―ッ!! さんじょ~っ!!」
この一件は、相当高くつきそうだ。
笑っていられるのも、今のうちかもね。
【END】
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