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第6話 たった一つの僕の夢
夢を見てた。
「大人になったら、旅に出る……」
それが、僕のたった一つの夢だったころ。
シャングリラ王国で僕が王族、貴族の通う幼年学院を卒業し『一人前』と認められた夜のことだ。
僕は、金銀宝石で彩られた豪華な部屋の窓枠に両手をついて腰を折り、その頃はまだあった自前の両足を踏ん張り、尻を突き出していた。
獣の体勢を強いられた僕に、後ろから抱きついた褐色の肌の美しい男が、耳元でささやく。
「残念だが、ユダよ。貴様の夢は、永遠に叶わない」
「シーカー、やめて……!」
僕に覆いかぶさる男の体が熱くて火、みたいだ。
シーカー自身不自由な体勢にも関わらず、容赦なく僕の衣装を引きちぎる音が間近に聞こえて、ものすごく怖い。
でも、一番怖かったのは、僕がどんなに叫んでもシーカーが止まらなかったことだ。
シーカーは、僕の腹違いの兄でシャングリラ王の側室の息子だった。
正妻の子で、いずれ、国を継ぐ僕を支えるべく騎士として鍛え上げられていたシーカーの肉体は神々しいまでに貫禄と威厳が宿る。
そんなシーカーに抑え込まれれば、いつも女の子に間違えられるような貧弱な僕が、敵うはずもない。
獣の姿にした僕の身体に淫らに手を這わせ、肌を貪り、噛みつくように口づけるシーカーから逃げ出そうともがいても、びくともしなかぅた。
「シーカー!? なんでこんなことを……ああああっ!」
剣を握り慣れたシーカーの手が、信じられないほど器用に僕の乳首を摘み、やわやわと性器を揉みしだく。
う……く……っ!
なんだよ、これ!
身体の隅々をいい様に触られて、身体の奥から、何かが上がって来る感じがする。
それが、女の子に触れた時に似てるような気が……?
幼年学院卒業間近、同級生に好きです、と言われてその気になって。
でも、本当は王家の血筋の種が欲しい家族にけしかけられただけだって判って途中でやめたあの時、みたいに。
くそ、冗談じゃない!
いくら、年齢不詳の美丈夫だとはいえ、年上の男だぞ!
ゴツイ手が! 鋼の筋肉が! 女の子のふわふわの身体と同じであるもんか!
男の臭いが! 飛び散る汗が! 僕の肌を舐める舌が、気持ち悪い……!
しかも僕の一番柔らかい所を触ってたシーカーは、だんだん興奮してきたらしい。
やわやわと触っていた手に力がこもる。
痛い! 痛い痛い痛い!
そんな莫迦力で揉みしだくな……っ!
僕は、お前と違って壊れ物なんだぞ!
痛みに耐えきれず激しく逃げ出そうとして、無理で。
されるがままのうちに……気持ちいい……とチラリと感じて全てを否定した。
冗談じゃない! 僕はこんな事で善がる変態じゃないぞ!
初めて受ける妖しい感覚に無駄に息が上がった。
頭もグルグルで僕は何も喋れなかった。
それどころか、自分の意思に関係なく、びくびくと身体が痙攣し始めたのにシーカーは更に僕の身体を暴いてゆく。
信じられない。
シーカーとは、十才以上年が離れてる。
年が離れ過ぎていて、腹違いの兄弟とは言えども、個人的には何の接点もない。
嫌われるほど知り合う機会もないのに、こんな事になるなんて。
「なんで……どうして……うううっ、あ」
いつの間にか、シーカーはたっぷりと僕の尻にローションを塗っていた。
普段は排泄にしか使わない穴につぷり、と指を一本入れられて、悶える僕にシーカーが笑う。
「シャングリラは、俺が継ぐことにした。ユダよ、貴様に王国は渡さない」
「ああ、シーカー。
国が欲しいならあげるって僕は前にも言ったよね?
君の方が、ずっと年上だし、父王の子なら申し分ないじゃないか」
そう。
僕は、別にシャングリラの王になりたい、とは思っていなかった。
常夏の国、シャングリラ。
大陸の最南端となってる、この国は、ソルトロードでも重要な交易の中心地のひとつだ。
別名快楽王国とも呼ばれてるシャングリラの夜は、特別だった。
貴重な闇の時間を惜しむように、シャングリラでは、ありとあらゆる快楽に溢れていた。
豪華な食事に酒、温泉。
使えば気持ち良くなる怪しい薬。
およそこの世の『快楽』という快楽を満たす事ができるんだ。
中でも一番目を引くのが性奴隷を飼う習慣だ。
王族や貴族だけじゃなく、一般国民に至るまで、その習慣は広がってひとりで十人以上の奴隷を従えてる猛者もいる。
奴隷たちは、逃走防止と見た目ですぐ『性奴隷』だって判るように両足を切断されていた。
そんな奴隷たちが、獣のように首輪で繋がれ、裸で公道を歩かされ。
ともすると道端で犯し、犯される快楽の宴が気軽に始まる『日常の夜』が嫌いだった。
だから、自分が王になる次代には、そんな悪習を辞めさせたいと訴えたのに。
実際にやってみたら散々だったんだ。
父王には何を莫迦なと一蹴され、臣下の家来、官吏たちには鼻で嗤われ、当の奴隷たちにも余計な事をするなと怒られた。
性奴隷は一般の労働奴隷や戦闘用奴隷よりも、待遇が良いらしい。
若く美しい、という条件を満たすことが出来れば、重労働をしなくても暖かい場所に寝られ、飢えることもない。
奴隷に堕ちるのは、普通王国に敵対し、滅びた他国の住人や、犯罪者、借金が返せなかった人々だというのに、シャングリラの奴隷たちは、様子が変だ。
魔石を使えば元の足より強く、美しく歩ける義足が比較的安価で買えるため、身分の高い貴族に取り入るために、自ら足を失う若者もいるくらいだ。
性奴隷になれば、高価な媚薬も主人持ちで使いたい放題なのだと彼らは、笑う。
シャングリラ王国の人間は、誰もかれも、果てのない欲望と快楽を誘う薬に犯されている。
何を言っても手遅れなのかもしれない。
夜ごと嬌声をあげ、淫らな快楽に溺れる人々を見たくなくて、顔を上げた空には、降るほどに輝く星々が、川のように天空を彩っていた。
溢れるほどに輝き、流れゆくその先に、何があるんだろう?
千年前のその昔。
偉大な女王クレアが、最強の十二人の悪魔を従えて、大陸を東西に貫く塩の道を作った。
そのおかげで、大陸の真奥。
魔法を発動するのに必要な魔石を産出する山岳地方と、人間が生きるのに必要な塩が取れる海を結ぶソルトロードは出来たけれども。
それ以外の道は千年たった今でもまるで整備されていなかった。
夜空を彩る星の川は、東西に流れている訳ではなかったから、その道をたどれば、女王クレアでさえ未だ見たことが無いはずの、未知なる大地が広がってるはずだった。
そんな『本当の楽園』を見つける旅に出たかった。
だから、ひと月ほど前に兄のシーカーに『王位を譲れ』と言われたとき『判った』と素直に頷いたはずだったのに。
どうして、こんな事になってしまったのか。
湧き上がった疑問は、僕の中に入って来たシーカーにかき回され、何も考えられなくなった。
アナルにローションをぬりたくっていた指が、すっと出て行った次の瞬間。
ぐじゅりという水音とあり得ない圧迫感を纏って、シーカーの肉の剣が、僕を突き刺して来たんだ。
飛び散る、星。
思わず口からあふれ出す声は、自分でも驚くほどの叫びになった。
う……っ、あああああ!!
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