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30.一つの答え
初めての、秘密の夜が明ける。命の、祝福の朝が来る。
甘く蕩けた微睡の中で、アルマは瞼を震わせた。
「ん……」
瞼がゆっくりと開き、アルマの瞳が少しだけ覗く。
「……。」
直ぐに視界に飛び込んできた、目の前の、横で寝ている人物の、端正な顔を見つめ、アルマの瞼が更に開いた――ルイスが、隣で眠っている。
「っ……!」
ルイスの顔を認識した瞬間、昨夜のことが一気に蘇ってきた。心の通った、酷く甘くて苦しい、けれども、温かな交わり。段々気恥ずかしさが込み上げてきて、アルマは頬を赤く染める。思わず距離を置こうと身体を動かそうとして、腰に痛みが響いた。
「っ……」
慌てて動きを止め、大人しくシーツの海に沈んだ。仕方なしに腰を擦り、痛みの原因も思い至って、アルマは更に顔を赤く染める。
深く、愛されたのだと思う。
あれからまた、口づけ、交わり、想いを注がれた。三度目に欲を吐き出された以降の記憶が酷く曖昧だが、ルイスはきちんと、世話をしてくれたのだと思う。少なくとも、アルマの身体は清められている。欲や蜜で濡れ、アルマが悶えたせいで皺だらけだったはずのシーツも真新しい。
眠るルイスの頬へと手を伸ばして、アルマは微笑んだ。温かく、溢れる思い――アルマはできるだけ腰に負担をかけないように身を起こすと、ルイスの唇に、そっと自身のそれを重ね合わせる。
「好き……」
小さく呟いて、急に恥ずかしくなった。その瞬間、逞しい腕に抱き寄せられて、ルイスの腕の中に閉じ込められる。軽く混乱していると、熱っぽい声が耳に吹き込まれた。
「そういうのは……ボクが起きている時に、ね。」
囁かれて、ようやく状況が飲み込めた。ルイスは起きていたのだ。アルマは頬を真っ赤に染めて視線を彷徨わせる。とても恥ずかしくて、ルイスから隠れたい気持ちが強いのに、ルイスの手がアルマを逃がしてくれない。抱き込まれたまま赤くなった顔を覗き込まれ、羞恥心がピークに達しそうになる。その寸前に、ルイスが微笑んだ。
「おはよう、アルマくん。」
当たり前のような挨拶だった。それが、アルマを一瞬で落ち着かせる。
ああ、生きている……それが、とても嬉しい!
「おはよう、ルイスさん……!」
アルマも笑って挨拶の言葉を言う。そして、どちらともなく、自然と軽いキスを交わした。幸せな気分で心が満たされ、そして遅れて羞恥心がやって来る。
「っ……」
再び朱に染まる顔を隠したくて、アルマはルイスの硬い胸板に額を押し当てる。恥ずかしさがなかなか消えなくて、しばらくそうしていると、頭を優しくなでられた。
「身体は、大丈夫かい?」
気遣うような声に、アルマは消え入りそうな声で答える。
「ちょっと……腰が……」
「ああ……ごめんね……嬉しくて、歯止めが効かなかった……」
ルイスの声に、反省の色が滲む。ちょっとだけ可哀想になって、頬の熱は引かないまま、アルマはようやく顔を上げた。そして再び、唇をルイスのそれと重ね合わせた。
「っ……!」
少し驚いたようなルイスの表情。アルマは頬を赤らめたまま笑う。
「嬉しかったのなら……特別、です。」
ルイスは一瞬瞠目して、嬉しそうに笑った。
「特別、か……」
とても、満たされる。ルイスの視線は、自然とアルマに付けた所有印へ向く。良いことを思いついた様に笑うと、ゆっくりと所有印に口づけた――瞬間、黒バラの刻印は、鮮やかな赤へと色付く。ルイスは、満足気に目を細めた。
「ルイスさん……」
「ん?」
戸惑いがちに名前を呼ばれるも、ルイスはアルマの胸に耳を当てる。アルマが生きている心臓の鼓動が、心地よい。
「これから、どうしよう……?」
単純な戸惑いと、僅かな不安が入り混じった声が降ってくる。ルイスは、アルマの身体を強く抱くと、呟くように、けれどもアルマに言い聞かせるように、言葉を紡いだ。
「せっかく……生きているんだ。せめて、幸せを目指して……一緒に、暮らそう。」
「うん……一緒に……」
寄り添うように、互いを抱きしめる。
それは、希望に満ちた約束――少年と吸血鬼が見つけた、一つの答えだった。
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