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第1話
「は!?俺が!?」
「ああ…申し訳ないが、すぐに行ってくれ。」
村長が俺の肩をトン、と叩いた。
俺は目の前が真っ暗になったような、大きな絶望を味わっているっていうのに、そんなのは関係ないとでも言うように村長は質素な部屋から出て行く。
***
「貴方がレヴァン合っていますか?」
「は、はい…」
俺の前にいるのは人の形をしているけれど、人とは明らかに違う犬の耳と尻尾、牙をもつイヌ科の獣人。
背が高く凛々しい顔をしたその人は俺の両手に枷をつけて、その枷に繋がる鎖をぐいっと引っ張る。
「いっ!!」
「逃げるなんてことはしないで下さいね」
「はい」
売られる牛ってこういう気持ちなんだろうな。
俺の後ろでは同じ村の人達がにこやかな笑顔で手を振っている。獣人の機嫌を悪くすると村1つくらい容易く消されるから、皆そうならないように、悪いところを見せないように繕うことで必死だ。まあ、理由がそれだけではないのわかっているけれど。
そしてそんな獣人にこれから飼われる俺は、きっとこの先に希望は抱くことはできなくなるんだろう。そう思うと気持ちは沈んでいく。
「レヴァン、貴方は今からルシウス様の邸に入り、そこではまず風呂に入ってもらいます。なぜなら貴方はとても汚らしい」
「…すみません」
「何故ルシウス様が貴方のような下等な人間を手に入れようとしたのか、今でも私は不思議に思っています。」
ひたすら俺に関係ないことで怒っている獣人。そんなに怒って文句を零すならそのルシウスって奴に直接言えばいいのに。
「···なんですが、その目は」
「ご、ごめんなさい」
「フン、この中に入りなさい。人間は歩くのですら遅い」
この中、と言って獣人が指差したのは小さな箱のようなもの。そこに入ると別のウシ科の獣人が俺ごと箱を背負って、グラグラした不安定なそこで何とか獣人達の機嫌が悪くならないように声を出さずに小さく丸まった。
「おい、人間」
「…はい」
俺を背負うウシ科の獣人は首だけ振り返って優しく笑う。
「さっきはフィオナが悪かったな。あいつはルシウス様を慕ってる。だからどうしてもお前という存在が気に入らなかったんだろう」
フィオナとはどうやらさっきのイヌ科の獣人の事らしい。別に獣人にとって人間はただの下僕のようなものだ、今更さっきのような言葉で傷つきやしない。
「気にしないで下さい。どうせ俺は汚い人間なので」
「俺はそうは思わない。確かお前の名前は···レヴァンだったか?俺はルキアノスだ。」
「ルキアノス、さん」
「ルキアノスでいい。」
ルキアノスはどうやら見かけによらず優しい獣人らしい。
彼のような優しい人に出会えたのは初めてで思わず涙が出そうになった。
「さあ、もう着くぞ。」
「ルキアノス、これから、よろしくね」
「ああ、何かあればいつでも話に来い」
目に薄く浮かんだ涙を拭い、見えてきた大きな邸を睨みつけた。
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