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第28話 愛する人VS父親

「まさか。自分で言うのもなんだけど、俺、喧嘩慣れしてるし。そんな簡単にやられやしない」  沢井はそう言うとカーペットに倒れている男を足で軽く小突き、言葉を重ねた。 「雅文は返してもらうよ」 「和浩さん……」 「ふっ、まさか『息子さんを俺にください』とか言いに来たのか? 貴様。笑止千万だな」 「あ? そんなこと言いに来たんじゃねーよ。雅文の父親にしては頭が悪いな。俺と雅文はもうとっくに結婚してるんだよ。今更あんたの許しを請うつもりなんかない」  沢井は冷たい声で父親に言ってのけると、黒崎の方を見て、一転とろけそうな笑顔を浮かべる。  そして黒崎の左手を取ると、その薬指にそっと指輪をはめる。  沢井の左手の薬指にもしっかりと絡みついている、二人のマリッジリング。 「そんなことは許さんぞ……! 雅文はT社の令嬢と結婚する予定なんだからな」 「だからさ、許すも許さないもないってーの。俺たちには既に既成事実があるんだから。それに何? どこの令嬢か知らないけど、こいつが俺以外の相手で勃つはずないし」 「か、和浩さんっ……」  なんてことを言うんだよ……そ、そりゃ本当のことだけど……。  緊迫した場面にも関わらす黒崎は恥じらいで真っ赤になってしまう。  対してドアの傍で立つ父親の方は怒りで顔を赤くしている。 「……っ……臆面もなくぬけぬけと」 「それはこっちの台詞だよ。病院へ向かう雅文を拉致監禁して。どうせ自分の跡を継がせようとか、そんなふうに考えたんだろ。……あんた、今まで雅文に電話の一本すら寄越したことなかったよな? なのに今更勝手すぎる」 「私たち親子の問題を、他人の貴様にとやかく言われる筋合いはない」 「俺は他人じゃねーよ。雅文の夫だからな」  きっぱりと言い切ると、沢井は床に転がった男を靴で踏みながら、更に言葉を重ねた。 「それに、この男が雅文に襲い掛かろうとしていたの、あんた知ってたのか?」  ギリ、と沢井が歯を食いしばる音がした。 「それがどうした? 私の息子だ。どう扱おうが私の自由だろう」  父親が唇を歪めて笑う。

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