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二人の気持ち①

 自分の時間が無いくらい頑張っていた渚。  そんな彼に母はこう切り出した。 「バイト減らしたら?」 「………は?」  母親としては体を壊してまで続けなくていいと言うが、兄弟の多い貧乏な家庭で少しでもお金はいる筈なのに何を言ってるんだと渚は思う。  今だって少ないバイト代だが、家計の足しになっている筈だ。  だが母は問題ないからと言う。 「アンタがお金入れてくれたから多少は貯金出来たし、家の事も下の子達に自分の事は自分でもう少しやらせればいいのよ。 アンタはもう少し自分の時間を大切にしなさい」  母の言葉に正直戸惑った。  家族の助けになりたかったし、母も助かると言っていたのにどうして今更バイトを減らせなんて言うのだろうかと……… 「アンタもバイトと兄弟ばっかじゃ恋愛も出来ないじゃない。 青春は1度きりよ」  母が笑ってそう言った。 「青春って……」  そう鼻で笑ったが、今日の出来事を思い出して笑えなくなった。  だって叶芽にキスしてしまったのだから……  何故キスしてしまったのか……  キスする理由なんて好きだから以外にあるのだろうか……?  じゃあ自分は叶芽を好きだと言うことになる。  そんな結論に戸惑う。  だって今まで男を好きになったことがなかったから……  無意識に難しい表情をしていると、やっぱり具合が良くないと母は思ったようで、ゆっくり寝てなさいと寝室を離れる。  リビングでは母が弟妹達にお兄ちゃんは具合悪いから静かにしてなさいと言う声が聞こえた。  なので今はお言葉に甘えてゆっくり眠る事にした。  それに今は何も考えたくなかった。  叶芽への感情が纏まらないので、まずは頭をすっきりさせたい。  渚はあっという間に深い眠りについた。

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